本の帯

 紙の本には、だいたい帯というものがついてくる。

 そのままにして読むのはすこし具合が悪く、ブックカバーで覆ったり、外していつのまにかなくしてしまうということもある。


 それでも、本好きというのは、この帯を大切にする。

 書かれていることは些細ながら、本から帯が失われると、完全ではなくなってしまうような気になるからだ。


 さて、美品の古本を買うと、当時の帯が残っていたりして、ちょっと得した気分になることも多い。

 その本にも、帯は確かについていた。


 絵本だった。

 幼い子どもに読み聞かせるのにちょうど良い、そんな絵本に、綺麗なままの帯がついている。

 パラパラと中をめくり、内容が気に入ったので買い求めた。

 自分には子どもなどいないが、もうすぐ子どもが生まれる知人ならいる。

 贈り物によいのではないかと考えたのだ。


 家に持って帰り、袋から取り出す。

 見栄えよく、リボンでも巻こうと思って。

 絵本を持ち上げた。


 ストン、と。


 なにかが、指先を掠めて、落ちた。

 ピリリとした痛みに、指先を見やると、ひと筋の切り傷があった。

 床に目をやれば、刃物が。


 一枚のカミソリが、落ちていた。


 ……うわぁ。

 これは縁起でもないものを買ってしまったぞ。

 そう思って、巻こうと思っていたりボンを置き、かわりにマジマジと絵本を見詰める。

 カバーはない。

 帯だけがある絵本だ。

 中を検めるけれど、不審なところはない。


 となると、帯。

 帯をはずそうとして、違和感に気がつく。

 思ったより、帯に厚みがあるのだ。

 それに、表と裏で、紙の質感が違う。


 ……嫌な予感がした。


 落ちていたカミソリを拾い上げ。

 そっと、帯の端に当てる。

 ゆっくりと、横に引く。


 ビリビリビリビリビリ――


 貼り付けられていた、もう一枚の帯が、剥がれて落ちる。

 そこには。


『つぎは、おまえだ』


 クレヨンをこすりつけたような文字で、ただ一言、そう書かれていた。


 翌朝、本は返品した。

 帯を、元通りにして。


 ――つぎは、おまえだから。

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