驚天動地⁉︎変身、ワキピュア‼︎(Bパート)

 「勝負だよ、怪人さん」


 癒子は改めて怪人に戦闘の意を告げる。

 怪人は変身の間何もしていないわけではなかった。

 そろそろ自分がツッコミ役になるべきかとソワソワしていたのだった。


「ようやくか、魔法少女。その姿違法アップロードしてやる」


 怪人的には決めセリフを言ったつもりでいた。

 確かな手応えも感じていた。


「いや、魔法少女じゃないワン」


 魔法少女じゃなかった。

 怪人は少し恥ずかしかった。

 なんか癒子まで恥ずかしかった。

 そして、指摘したイヌヌも共感生羞恥心にやられていた。


「ところで、犬。この衣装は何?」


 癒子は流れを変えようとシンプルな疑問をイヌヌにぶつけた。

 癒子はイヌヌの名前がうろ覚えだった。


「何とは何だワン、でしょうか?」


 イヌヌは犬呼ばわりされ、何か怒らせたのではないかとビビっていた。

 癒子のコスチュームはイヌヌの自作だった。

 頭の2つの大きなリボンをはじめ、全体的にピンクをベースにフリルとリボンが多用されており高校生の癒子が着るにはちょっと痛いくらいだった。


「なんでスカートの丈こんなに長いの?」


 癒子の指摘するようにスカートの丈が長くて脚の露出は0だった。

 むしろちょっとスカートがずってる。

 間違いなく戦闘に向いてなかった。


「権利団体がうるさいんだワン」


 イヌヌは権利団体に弱かった。

 女の子を戦わせるだけでさえ文句言われるのにそれ以上の冒険はしたくなかった。

 それでもズボンでなくスカートにしたのはイヌヌなりの利権団体への小さな反抗だった。


「じゃあ、全体的に厚着なのは?」


 癒子のコスチュームは春先にしてはやけに肌面積が少なかった。

 顎から下の露出はほぼなかった。


「権利団体がそうしろって言うから仕方なくね、ワン」


 イヌヌは実は権利団体とズブズブであった。

 そして語尾にとりあえずワンを付けたが適当すぎたと反省した。


「じゃあ、こんだけ露出がないのに脇だけやけに無防備なのは?」


 権利団体への忖度コスチュームのはずが何故か脇の部分だけ切り取られたように丸見えだった。

 癒子は他の露出が少ない分、脇が出てるのが恥ずかしかった。


「それは癒子はワキピュアだからだワン」


 イヌヌが言ったことが癒子にはまるで理解できなかった。

 しかし、癒子は肝心なことは深く考えないたちなので問題なかった。

 そして、怪人はまたもや待たされて少し不貞腐れていた。


「怪人さん、待たせてごめんね。今からワキピュアの力見せるよ。見ててね!」


 癒子は怪人が不貞腐れてるのに気づきフォローを入れた。

 癒子は基本みんなに優しかった。

 そして怪人は優しくされて勘違いをしてしまった。

 思えば怪人が女子と話したのは5年前の小学校の同窓会でクラスのマドンナの菊子ちゃんに結婚の報告をされて以来だった。


「ワキピュアパーンチ!」


 癒子は怪人に向けてパンチをくり出した。

 蹴りはスカート丈的に無理だった。


「え、ちょい」


 怪人は慌てた。

 女子との接触なんて何年ぶりかもわからないからだ。

 このままいけば癒子の拳は怪人の顔面にあたる。

 怪人は思った。

 唇にあたっちゃったらどうしよう?

 怪人はドキドキしていた。

 しかし、癒子の拳が怪人にあたることはなかった。


「暴力はダメだワン」


 イヌヌは優しく癒子の拳を受け止めた。

 イヌヌ曰く、腰が入ってないのでたいした威力じゃなかった。


「犬、なんで?」


 癒子の中でイヌヌの名前はもう完全に犬だった。


「権利団体があるワン。だからワキピュアは暴力しないワン。僕はイヌヌだワン」


 イヌヌは権利団体と自分の名前をアピールした。


「けど、犬。それじゃあどうやってあの怪人さんを倒すの?」


 癒子はイヌヌの言い分に納得感心して後半聞いてなかった。 


「ワキキュアの必殺技を使うワン。僕の名前はイヌヌワン」


 イヌヌは自分の名前をアピールしようとするも語尾と混じって別物になってしまった。

 間違いなくイヌヌワンと間違えられる流れとイヌヌは悟った。


「必殺技ってどうやって使うの、犬!」


 癒子は必殺技の響きに胸躍って後半をきいてなかった。


「ワキピュアの力とあざとさを脇に集中させるんだワン」


 イヌヌはイヌヌワンじゃないならもう呼び名なんてなんでもいいと思った。


「ふぬー」


 癒子はよくわからなかったが、とりあえず力を脇に集中させようと頑張った。

 一方怪人はイヌヌへの怒りに燃えていた。

 癒子とのボディータッチを阻み、癒子と親しげに話すイヌヌに本気の殺意を抱いていた。

 もう違法アップロードとかどうでもよくなっていた。


「癒子、急ぐんだワン。うん、マジで」


 イヌヌは怪人の怒りに気づいた。

 犬と怪人のお互い名前で呼ばれないもの同士で一方的に少しだけシンパシーを感じていたイヌヌは悲しかった。


「イヌヌ、コロス」


 怪人の怨嗟に満ちた声に、イヌヌは名前を呼ばれた嬉しさと恐怖で複雑な気分になった。

 怪人はパソコンを畳んで角のところでイヌヌに殴りかかろうとした。

 その瞬間、癒子の脇が光を放った。


「いけ癒子、必殺技を叫ぶんだ!」


 イヌヌはまたしても語尾を忘れた。

 ついでに技名を教えるのも忘れた。


「え、えっと、ワキピュアフラッシュ!」


 癒子は頑張ってそれっぽい技名を叫び、脇を怪人に向けた。

 しかし、普通に違うので技は発動しなかった。 


「ぐっは」


 怪人は鼻血を出し倒れた。

 JKの生脇は怪人にとっては刺激が強すぎたのだ。


「え、なんで?怪人さん、倒れちゃった⁉︎」


 癒子は勝因がわからず困惑した。

 彼女は自分の持つ武器に気付いていなかった。


「おめでとう、癒子。初陣勝利だワン」


 血塗れのイヌヌが祝福する。

 怪人は倒れたがイヌヌはその直前に普通に殴られていた。


「あ、お日様だ!気持ちいいー!」


 怪人が倒れた影響だろうか、空を覆う至極色の雲は消え元の晴れ空に戻った。


「ところで癒子、学校は大丈夫だワンか?」


 倒れてる怪人を蹴りながらイヌヌは言った。


「あわ、遅刻だ。急がなきゃ!もう、アンハピハピデイだよ」


 既に1時間目が始まってる時間だった。

 癒子は慌てて走り出した。

 こうして癒子のワキキュアとしての生活が始まったのだった。






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