Sword on me‼︎ワキピュア

何処にでもいる唯の唯一神(仮)

驚天動地⁉︎変身、ワキピュア‼︎(Aパート)

 春の朝のうららかな気候のもと、学校に向かう1人の少女がいた。


「ふふ、今日も学校楽しみだなぁ。ハピハピデイ!」


 この独り言が大きい少女の名前は脇宮 癒子ユコ。笛池高校に通う高校2年生。

 少しおバカだが明るい性格で誰とでも仲良くなれるクラスの人気者である。

 密かに彼女に想いを寄せる男子生徒も多い。


「今日も素敵な日になるといいな。お日様も元気だしきっとハピハピデイだね」


 癒子はやけに独り言が多かった。

 そしてよくわからない口癖があるがそう言うキャラ設定なのでツッコミを入れる人は誰もいなかった。


「あれ?急に夜みたいに暗くなっちゃった」


 癒子の言う通り、先ほどまで雲一つなかった空は至極色した雲に覆われ、朝の通学路は闇に包まれた。


「きゃーー!」


 突如、女性の叫び声が通学路に響いた。

 声は癒子からそんなに遠くない。

 癒子は考えるより先に声の方へ走り出していた。

 声のした現場にたどりついた癒子が見たのは逃げ惑う人々の姿、そして怪人だった。


「何あれ⁉︎」


 癒子が驚くのも当然だった。

 怪人は全長3mはあり、全身は顔を含めて真っ青で凹凸がなかった。


「ヒャハハ、私は怪人イホウアップロー。動画サイトやSNSに著作者の承諾をえずに無断でアップロードするのさ。お前らも違法アップロードしてやろうか!ヒャっハハ」


 怪人は声高らかに誰に向かってか自己紹介をした。

 そしてその間に人々は癒子以外逃げていってしまった。

 癒子は正直何言ってるかわからなかったが、怪人を悪だと感じた。

 だって違法って言ってるから。


「うん、倒さなきゃ」


 癒子は悪=倒すの短絡的思考の持ち主だった。

 幸い運動神経には自信があった。

 周りに癒子以外いなくなってしまったので渋々怪人はターゲットを癒子に決めた。


「なんだ?僕を倒す?手が震えているぞ。俺様に勝てるわけがないだろ。ヒャハハ」


 怪人の言う通り、癒子は恐怖から震えていた。

 しかし、そんな恐怖は「一人称定まってないの?」という疑問ですぐ消えた。


「平和のために、みんなのハピハピデイのために私は戦うよ」


 癒子は覚悟を決めて、拳を握った。

 しかし、拳を握ってから「中学のときサッカー部だったし蹴りの方がいいかな?」と覚悟が一瞬揺らいだ。

 その隙を怪人は見逃さなかった。

 即座にパソコンを起動しアップロードの準備を始めた。

 急いだためパスワードを打つ前にエンターキーを入力してしまい時間をややロスしたが、それでも動きは早かった。


「やめてー!」


 癒子の悲痛な叫びが響いた。

 しかし、怪人が手を止めるわけがなかった。


「いっひひ、これでおいが外国に高跳びすれば捕まることもない大勝利だ、いっひひ」


 癒子は「笑い方も変わった?」という疑問で歩けなかった。

 癒子はなにか考えると動けなくなるタイプだった。


「力が欲しいかい?」 


 そんな時、突如新たな声が響いた。


「力が欲しいかい?」


 誰も返事をしなかったからかもう一度同じ声がした。

 しかし、癒子は驚いて声が出なかった。

 そして、怪人は「もしかして俺に言ってる?」とアップロードの手を止めてちょっとソワソワしていた。


「誰だ!」


 声を出したのは癒子ではなく怪人だった。

 謎の声が癒子に言われても、自分に言われてても大丈夫な無難な選択肢を思いついたからである。


「少女との契約に割り込むとは無粋な怪人だね。僕は妖精イヌヌ。癒子、君にあの怪人を倒す力をあげるよ」


 癒子の目の前の空間にダックスフンドをデフォルメしたような生物が現れる。

 イヌヌはなかなか喋らない癒子に痺れをきらし、考えていた演出を諦めて言いたいことを全部言った。


「カニンヘン?」


 ようやく癒子の口から出たのはそんな言葉だった。

 イヌヌは悩んだ。

 ダックスフンドの種類は基本的に胸囲で決まる。その基準でいうとイヌヌはミニチュアダックスフンドだった。しかし、そもそもイヌヌの姿はデフォルメされ小さくなっている。普通のダックスフンドの基準で考えてもいいのだろうか?


「もしもし、オカン?あ、うん、じゃあいいや」


 イヌヌは悩んだ挙句実家に電話した。

 だが、出たのは父親だったため、イヌヌは諦めた。


「カニンヘンじゃないの?」


 正直癒子は気が動転してきいてしまっただけでそこまで興味はなかった。

 が、ここまで悩んでもらうとどうでもいいとは言えない優しさを持っていた。


「わかんないワン」


 イヌヌは正直に言った。

 そして語尾をつけ忘れていたことを今思い出した。


「…それで力はいるワンか?」

 

 昨日寝る前に必死にセリフを練習したのに、癒子に台本を崩されてイヌヌは少し不服気味だった。


「うん、ちょうだい」


 癒子は貰えるものは貰う主義だった。

 彼女の中では「飴ちゃんいる?」くらいの質問としか捉えてない。


「チェンジ・ソード・オンと叫ぶんだ、癒子」


 イヌヌはようやく言いたいセリフを言えて満足げだった。

 そのせいでまた語尾を忘れたことに気づかなかった。

 癒子は今更ながら初対面なのに名前を呼び捨てなのが気になり、あとでどちらが年上かしっかり確認しようと決めた。


「change・sword・ on」


 癒子は案外英語が得意だった。

 癒子の全身が眩く輝き始めた。その光はやがて形を持ち始める。

 このタイミングでようやく癒子は「変身するやつやん」となぜか関西弁で気づいた。

 慌てて癒子は変身終わりの決めポーズを考え始めた。

 癒子は奇抜さとカッコ良さの狭間で揺らいでいた。

 やっぱりカッコ良い方がいいに決まってるが、放送後のSNSの反応を考えると奇抜さも欲しかった。


「癒子、どうしたワン?」


 イヌヌが心配そうに癒子に話しかける。

 癒子が悩んでる間に変身はとっくに終わっていた。

 結局決めポーズは考える人のポーズになってしまった。

 癒子は「奇抜さはあるからセーフ」と自分に言い聞かせることにした。


「さぁ、勝負だよ、怪人さん!」




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