第35話 ブレ:三日目 - ファイナルラウンド②
列車内では凄まじい衝撃と共に、一部車両が半壊。
その衝撃によって紅葉達は車両の外へと放り出された。
「紅葉ッ────!!」
「あらら────、紅葉はしゃいじゃって・・・。
かっわい────。」
この場に取り残された黒崎孝文は目の前の狂人の愉快な態度に鎮静する。
「・・・なにいってんだよ、お前。」
「そんな敵意丸出しでいいの? 君戦えないんでしょ、変に刺激されると冷めた殺意もまた沸騰しちゃうぜ?」
黒崎は目の前の男を凝視する。
なにも男が憎たらしくてそう睨んでいるわけではない。
これは異常なまでの嫌悪感。
信じられないといった風に見る目だ。
「随分と楽観的なんだな、友人が事故に巻き込まれてもそのひょうきんみたいな態度は変わらないか。
まぁ、それは俺も同じか。」
「一つ訂正、紅葉は別に友達じゃあないよ。
君は彼女の友達みたいだけどさ、あんなのの何がいいの? イラついたらなんにでも八つ当たりする異常者だよ?」
「そっちの彼女は、知らない。
まぁ、こっちの紅葉もそんなもんだけど。」
「それじゃあなんで友達なんてやってるのさ。」
「友達やるのに理由なんて要らないだろう、それともお前は理由があって誰かと友達になるのか。」
「そうだよ、僕は"友達"に求めてしかいないんだ。
"友達"っていうのはね、財産なんだよ。
僕が作って、僕が育てて、僕が築き上げた信頼の元"友達"が出来上がる。
だから"友達"は武器にもなる、だけど彼女には僕の武器にはならない。
ただかわいいだけ、それ以外に彼女の需要はない。」
黒崎は、男が言う紅葉が自身の知る紅葉の事を言っているわけではないのは理解している。
だが、それでも黒崎は無性に腹が立った。
「随分と効率的な考え方だな、親にでも仕込まれたのか。」
「親はいない、家族もね。」
「そうか、それは悪いことを聞いた────。」
「「・・・・・・」」
車内には静寂が訪れた。
黒崎は目の前の怪人から目を離さない。
怪人もまた黒崎から目を離さない。
────怪人は黒崎目掛けて一直線に飛んだ。
冷めた殺意は抑えきることができず、沸騰しそのまま表へとこぼれ出る。
手には二本の短剣。
いわゆる双剣というジャンルに位置する。
双剣とは、両手での勢いのある振りはできないものの、左右から振りかざされる乱撃染みた手数が特徴である。
しかし、それは武器を交えたもの同士の戦いの場合。
それが武器も持たない人間との争いの場合は、刃物という人をも殺める事すら容易くできる武器へと変わる。
黒崎は刃物を持った男が目の前に現れた場合、背中を見せてすぐさま逃げるタイプ。
これは正しい。
人として正しい。
これが人間としての正常な判断なのだ。
それほど刃物が持つ脅威的概念は異常であり、それを目の前に怯える人間は正常と判断される。
だが────、紅葉ならどうするか。
黒崎の頭の中にはそれだけが巡る。
結論、鹿野紅葉は壊れている。
壊れているが故、恐らく彼女はこの場面でも弱気にはならず、怪人にも立ち向かうだろう。
────それが今黒崎が出した答え。
黒崎は間髪入れず、怪人の元へ駆けていく。
「は───、お前異常者だね。」
「お互い様────。」
相手が武器を持ち得ている以上、リーチ的有利は圧倒的に怪人が優っている。
では力勝負ではどうだろうか。
男は細長い身長であるため、見かけではあまり力勝負を好む相手ではない。
だが拳と刃物との一戦、力の勝負ではない。
本来、このような一戦は拳側が防衛する事こそが勝利だろう。
勝ち目はないからだ。
拳では人は殺めるには欠ける。
そういった正常な認識。
だが今の黒崎は壊れている鹿野紅葉の行動を元に怪人へと駆けている。
その正常な認識はとうに持ちあわせてはいない。
彼女の今まで取った行動を分析する。
荻原との戦い、紅葉は彼の一撃を寸前で避けた。
それは意図して紅葉が狙ったものだ。
そしてそれは荻原にも"予想外"であったに違いない。
それなのだ、どんな強者であろうと、どんな異常者であろうとも"予想外"とは常に意識外からやってくる。
今黒崎ができる予想外の行動。
目の前の男は黒崎を殺そうとしか考えていない、では殺せなかった場合は予想外ではないだろうか。
────全力で避ける。
黒崎は自身が今持っているもの全てを投げうってでも次の瞬間を生還する。
それだけに全てを捧げる。
怪人は両手に持った二本の短剣を黒崎目掛けて、斜めに交えるように振り切る。
恐らく、怪人はこのアクションで黒崎を殺した、いいや殺すはずだった。
しかしその光景は訪れなかった。
「は────?」
怪人の振った短剣は空を斬る。
黒崎は攻撃の寸前、走る勢いを利用しスライディングの要領で怪人の股を通り抜ける。
そしてその途中、怪人の足を掴んで転ばせようと試みる。
怪人は見た目通り軽い。
黒崎の策は必中した。
怪人は一瞬その場で態勢を崩す。
「お前────、僕に膝を突かせるつもりかッ!?」
怪人は苛立ち、再び黒崎へと攻撃を仕掛けようとする。
「死ね────。」
哀れみすら一切ない、殺すとだけ願った悪意が黒崎を襲う。
黒崎はこの先、一手のミスも許されない。
一手誤れば確実に死ぬこの状況。
次の行動を考える、だがそれでは遅かった。
怪人の刃物が黒崎の目前までやってくる。
ここにきて黒崎の思考は完全に停止しかける。
死を受け入れたのかもしれない。
視界が短剣一本の先端で埋まろうとしたところ、前方からやってくる何かに怪人は吹っ飛ばされ、怪人もろとも黒崎を越えて後方車両へと飛んで行く。
「クソがッ!!」
怪人を吹き飛ばしたのは後方で信条と交戦していた荻原であった。
「無事か、黒崎。」
「か、会長、・・・助かりました。」
そして荻原をここまで吹き飛ばしたであろう信条がやってくる。
「お────、おぎやん。」
「リッカか、お前何やってんだこんなところでよ。」
「おぎやんを追ってきたんだよ。」
「あぁ、そうかよ。
なら丁度いい、手貸せ。」
「手って、おぎやんでも無理なの?
って、御曹司じゃんッ!! こんなとこで何やってんのよ!!」
リッカと呼ばれる怪人は信条を眺め、そう感想を漏らす。
「首切りのリッカーか、"ブラックリスト"が集まって何をするつもりだ。」
「御曹司さんに語るようなお話はありゃせんですよ?」
リッカは上体を起こし、荻原もそれに続く。
「黒崎、無理に戦う必要はない。
離れていろ、とはもう言わないが死にたくなければ戦わない方が身のためだぞ。」
信条はそう言って、蒼い閃光を両手に灯す。
それを見かねて前方の荻原は疾走し、リッカは血が滴る短剣を舐め回す。
ここに予想外のタッグ戦が始まった。
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