第34話 ブレ:三日目 - ファイナルラウンド①

"異分子"同士の戦いが始まる。

目の前の少女は自身から湧き出る悪意を武器に、一直線でこちらへ進撃してくる。

それを見て私も迎撃態勢に入る。

"アイツを殺す"、その悪意を携えて私は悪意を周囲に散らばせた。

その悪意は真横に隣接する大河をも巻き込み、半径数メートルの領域を作る。

この場に舞台(ステージ)が整った。

私自身の感情に飲み込まれたこの一帯はもはや私の為だけにある舞台(ステージ)だ。

周りは森に囲まれており、何かしらの大災害によって偶然にも出来上がったであろうこの空間、陸地。

真上の橋では列車が走行しているが、あと数秒も経たないうちに列車は今も大自然に響く轟音を抱え、遠くに行くだろう。

────列車の去り際、辺りは一瞬無音の空気を纏う。

そして無音の空気は、目の前から駆け寄ってくる彼女の地を蹴る音が破壊した────。

「は───、はぁ────!」

彼女は手のひらへと悪意をため込む。

その姿はまるで鏡を見ていると思わせるくらいに自分に酷使していた。

しかしその姿を端から見るのは初めての経験だ。

こんな風に見えてるのかな────。

初めて見るものではあるものの、私にはその次に何が起こるのかはなんとなく予想できる。

手のひらにため込まれた悪意はやがて私へと向かってくる。

それを相殺する術は・・・、ある。

私も同じことをする。

彼女と同じように私も手のひらへと悪意をため込んでいく────。

「うそでしょ────。」

突如、鏡に見えていた私はオリジナルへと変わってゆく。

彼女の溜め込まれた悪意を自身の手によって握り潰したのだ。

私の知らない行動。

この時改めて彼女は私であって私でもない何かと認識する。

握りつぶされた悪意は彼女の周りを粒子の様に散乱し始めたのだ。

「零式、乱刹(ランセツ)。」

散らばった粒子状の悪意はそれぞれが形状を瞬く間に変化させてゆく。

────出来上がったのは黒い"槍"だ。

粒子の数だけ悪意が黒槍へと変わってゆく。

そして彼女の合図でその黒槍は私へと発射された。

私は反射的に手に携えていた悪意の塊を向かってくる一本の槍へと放つ。

槍の強度は高くはなかった。

私のその攻撃で黒槍は一瞬で粉砕された。

しかし、彼女の攻撃の持ち味は槍の強度ではなかった。

また一本、二本、三本と私へと向かってくる黒槍。

一本なら問題なく対処が可能であったあの黒槍は数で押してくる。

私の今できる一点集中の攻撃だけではカバーできない。

圧倒的手数の有利。

そして"できること"が広げる可能性。

私はまだできないことがたくさんある。

だから手がない。

今の彼女にできることが私にはまだできない。

"できない"から必然、これを防ぐ可能性は低い。

私の真横擦れ擦れに通過した黒槍は後ろに生える一本の木々を粉々に打ち砕いた。

その姿を私自身に連想する。

受けたら死ぬ。

当たることはできない。

であれば避け続けられるだろうか────。

それも難しいだろう。

飛んでくる黒槍のスピードは避けられないスピードではない。

だが時速100キロに及ぶ黒槍は一本ではない。

避けたらまた次が来る。

今の私にはそれがいつまで続くかがわからない。

だからいずれこちらの体力が尽きてから串刺しにされるのは目に見えている。

この勝負、受けに回ってはいけない。

常に攻撃者である必要があるんだ、奴に"できること"をさせるな。

そうすれば奴が勝てる可能性は限りなく低くなるはずだ。

────だけど、今既に彼女が"できること"が私の勝つ"可能性"を下げている。

この一瞬だ、この一瞬だけ私は防御に徹する。

ではどう防ぐ。

一本なら防げるんだ、これがヒント。

黒槍は"悪意"での攻撃には脆い。

今の私の問題点は数ある攻撃に対し、一つずつしか対処できない一点集中の単体技でしか相殺できないということ。

数には数で叩くのがセオリーではあるけれど、生憎と今の私にそれを可能とさせる知恵がない、経験がない。

私の見たもの感じたもので今を乗り越える何かを創るんだ。

あの槍が当たらなければいい。

盾が必要だ、それはどこかで目にしたことがある。

蒼園────、会長オリジナルの防御結晶。

────"あれ"が私もやりたい。

あれは会長の持つ膨大な霊力が糧となって作られたものだろう。

私にそこまで霊力を生み出すやり方がわからない。

今私が生み出せるものは"悪意"。

悪意ならいくらでの生み出せる。

概念は霊力と違うが、それ相応の量を創り出せる。

"自分"を殺す────。

目の前の自分を殺せ、私という鹿野紅葉の固定概念もろとも破壊するんだ。

ゾッと膨大な悪意が生み出される。

あとはもう見様見真似だ────、広い範囲で力を凝縮させるんだ。

私をも囲うほど大きくて槍をも弾く盾を創れ。

周囲の悪意を両手へと集合させる。

"できること"で可能性を広げ、知恵と経験でそれを実現させろ────。

「────零式、奈落(ナラク)ッ!!」

目の前に盾を敷くようなイメージで悪意を擦って、広げる。

黒槍はわたしへと向かっていた為、目の前の漆黒の空間へと吸い込まれていく。

弾かれた────、ではない。

吸い込まれたのだ。

それは宇宙空間に存在する光をも飲み込むブラックホール。

吸い込まれた槍の所在は不明、これを創り出した本人でさえわからない。

ミラクルボックス。

一本、二本、三本、と次々とその穴へ黒槍は吸い込まれてゆく。

「なによ、あれッ────!!」

彼女の驚愕する顔が目に浮かぶ。

やってやった、自分を乗り超えたんだ────。

しかし、その喜びも束の間である。

"私"自身は順応する。

私がこうして彼女の攻撃を防いだように。

何本も穴に吸い込まれていった黒槍は進路を変え、私を回りこむように発射された。

前から飛んでくる槍はまだある。

この盾を背後に持ってくることはダメだ。

またなにか、別の手が必要になる。

────そういえば、簡単にこれできたな。

他の事もなにかできるんじゃね。

『特質能力はセンスと才能で扱える。』

・・・あくまで感覚的に、私は悪意を心意で浄化して彼女がやった"槍"を連想する。

長さは160センチくらいで強度は高めで簡単には壊れないものがいいな。

その連想は瞬く間に浄化された悪意と連動していった。

漆黒の悪意は彼女とは少し違う黒槍を生み出した。

「そこッ────!!」

感覚的に黒槍を背後から飛んでくる槍へと投げこむ。

槍同氏は衝突し、跡形もなく壊れ去る。

できた────。

心意は自由なんだ、感情だから、考えだから、なにをしようと思いのまま。

「なによ、それで私の上にでもいったつもりなの?

 ふざけんな、ふざけんなよ。」

彼女は私の一瞬の成長に嫉妬したのか、奮起して再び手のひらで悪意を練る。

そして練った悪意を転々と、空中に放り投げそれを足場の様にして、空を駆けてくる。

「そんなことも出来るのッ────!?」

「上からの攻撃は慣れてる?」

彼女はそう言って、グングンと上に登ってゆく。

恐らく彼女は何かを狙っている。

それをさせるわけにはいかない。

「いっけッ────!!」

空中のカモは撃ち落されるだけだ。

さっき覚えた黒槍を悪意で数本生成し、彼女を串刺しにしようと空中へ向かって射撃する。

彼女が足場を離れた瞬間に放った。

空中での身動きはできない、新たな悪意の足場も作り出す時間の内に私の槍はあいつを通過するはずだ。

そして、私の放った黒槍は彼女の胴を貫いた────。

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