第28話 ブレ:二日目③
私と会長は先ほど起きた出来事を黒崎から伝えられた。
「クッ────!!」
「待つんだッ!! 紅葉君!!」
私がその場から駆けだそうとしたところで、会長に手を掴まれる。
「離してくださいッ!! 邪魔です。」
無意識のうちに会長の手を振り払い、そして周りに漂う悪意を会長へと打ち込む。
しかしそんな安直な攻撃は会長の蒼い閃光によって弾かれた。
「────このとおりだ。今の紅葉君では行っても無駄だ。」
「でもッ!」
親友が今危険な目に遭っている。
そんな状況でこちらは落ち着いてなどいられない。
「大丈夫だ、きっと冬島さんがなんとかしてくれる。
あの人でダメならば、もう俺たちに手の打ちようはない。
だから今はただ耐えるんだ。」
苛立った私を落ち着かせるように会長はそう口にする。
無駄な足掻きなんてことは十分に理解しているつもりだ。
だけど、このまま何もせずにいることが私は悔しくて仕方がない。
「あの────、ちょっといいか?」
すると、今まで黙っていた黒崎が口を開ける。
「俺は、あいつの目の前にいて何もできなかったんだ。
あいつとは別に仲良しでもなんでもないけど、もう他人とは呼べない。
紅葉がその気なら俺も一緒についていくよ。」
「馬鹿な真似は止めるんだ、君が行っても何もすることはできないぞ。」
「まだ始まってもないのに決めつけるなんてとんでもないリアリストだな、会長。
なにも出来ないから行くな、か。ならできる可能性が一つでもあるなら行く理由が出来るよな。」
「・・・それは。」
「てゆうかさ、会長。
もしかしてだけど、ビビってるの?」
「・・・違う、俺は今の状況を冷静に見て、判断しているだけだ。」
「それって、"フリ"だけじゃなくて?
会長はさ、超えられない壁が合ったら迷わず違う道を選ぶ臆病者なんじゃないのか?
自分のやれる確実な範疇でしか行動できない、チキンってわけだ────。」
黒崎は今、冷静ではない。
故に早くも決断を迫られている、その為に今彼は会長を奮起させようとしているのだ。
『ここにずっと居たってしょうがない。』
黒崎はミスを犯した自分を放っては置けない。
それは黒崎自身も偽善者であるからだ。
過去に自分自身を守るために、自分を選んだあの時から黒崎は自分を選び続けてきた。
その結果が先ほどの過ち。
そして黒崎は今、後悔の念に駆られている。
「会長、アンタの事はあまり知らないけど、そんな"人"はカッコ悪いと思う。」
「黒崎────。」
黒崎の言葉がズシンと会長にのしかかる。
「・・・うるさいぞッ!! 俺に説教するなッ!!」
会長が怒鳴った。
それは子供みたいだ、今会長は子供だった。
勘違いしていた。
会長の冷静な態度、落ち着いた状況判断。
全てにおいて私を上回っていた。
だから会長は凄い人だと思っていた。
それは今も変わらない。
だけど私は勘違いしていた。
会長も子供で私達も子供だ。
いくらでも怖いものがある、私にもある。
それは会長も同じだったのだ。
「────クソッ!!」
会長はこの場にとどまっているのが嫌になったのか、途端駆け出し廃工場を後にする。
「・・・ちょっと、言いすぎじゃない?」
この場に残った私は会長を視線だけで見送る黒崎にそう尋ねる。
「ごめん、俺も冷静じゃなかった。
次に会ったら謝らないと────。」
「そうしなさい────。」
それで私達の会話は止まる。
先ほどまで動きたくてウズウズしていた心はいつの間にか落ち着いていた。
「はぁ。 ・・・これからどうする?」
黒崎は一呼吸置いてから、私に視線を向ける。
「勿論、行くに決まってるでしょ。
会長をまた怒らせちゃうのが少し気がかりだけどね。」
「そうか、それじゃあ行くか。」
「うん────。」
お互いに思っていることは一緒だったのか、私たちはもう誰もいない廃工場に背を向けて目的地へと歩み始めた。
◇◇◇◇◇
午後十一時。
秋野の街は騒がしかった。
昔はこんなにも騒がしい所ではなかったのに、これもブレで人口が約2倍に増えたが原因だろうか。
ブレは会長達の読み通り、世界規模の影響だった。
世界中は私達と同じように未来からやってきた人たちで一気に溢れかえったのだ。
そしてもちろん、未来からやってきた人たちに今この世界で住む場所はなく、私たちの様に寒い夜を外で過ごしている。
その事態に政府も収拾がついていないのか、街は愚かありとあらゆる機関が正常に稼働していないのが現状だ。
もはや大災害と言っていいレベルだろう。
それ以上かもしれない。
街の騒がしさの原因はそこにある。
同じ人間同士の争いだ。
この現代で、生存競争が起こっている。
そんな血が流れあう騒がしい街に先ほど、私たちは足を踏み入れていた。
「紅葉の家ってどの辺なの?」
「今向かってるから、少し静かにしてなさいよ。」
私達は息をひそめながら、誰にも気づかれないよう私の家へと向かう。
「在った────。」
懐かしい景色が視界に広がる。
間違いなく昔住んでいた家だ。
周りの空がもうすこしだけ明るかったのなら私はたぶん感動のあまり泣いていただろう。
真夜中なのか、外が騒がしいからなのか生憎とパパは家には居なかった。
中には過去の私がスヤスヤと眠っていただけだ。
こんなことあったっけか。
いまいちこんな夜を思い出せない。
そもそも彼女は本当に私なのだろうか───。
パパの隠し金が隠されている棚から少しだけ頂戴して、家を後にする。
「むー、本当にいいのかよ。 泥棒なんじゃないのか?」
「いいよ、どうせあの人休日にダラダラしてるだけなんだし───。」
「はぁ────。でもさ、お金なんてあっても何に使うんだ?
もうこんな事態でお金とか使えるところあるか?」
黒崎の言い分は御もっともだ。
だって今世界は破綻している。
何故か電気は生きているがそれ以外の人が操るものすべては機能を失っている。
まるでロストワールド。
これがブレが起きてからたった二日の世界だった。
「よし、とりあえず駅にでも行ってみましょう。
ここから京都なんてとても徒歩で向かう距離じゃないわ、冬島さんどうやって向かってるんだろう。」
「いや、あの人多分空飛んでるぜ? そのくらい速かった。」
「まじかー、でもそれもこんな世界だと疑いきれないんだよな───。」
駅に着くと何やら中が街より騒がしかった。
「さぁ!! さぁ!! 希望の船(電車)ノア号の残り席あと一組分だぜッ!!
目的地は京都ッ!! この戦場の地から逃れられる唯一の手段だ、現在の最高価格はそこのお兄ちゃんの200万円!!
他に出す奴は居るかッ!?」
何と駅の中では電車の切符を賭け、とんでもない額の裏オークションが開催されていた。
「切符に200万って・・・、諦めよう、紅葉。」
「いや────。」
正直言って、徒歩で京都は無理がある。
ここはなにを使ってでもあの切符を手に入れなければならない。
なら仕方ない、ごめん。 パパ。
私は懐からパパの持ち物である先ほど家から盗んだゴールドカードを手に持ち、掲げた。
「買います────!!」
周りの客の視線が一気に集まる。
「「ププ、プハハハぁぁ!!!」」
するとなぜか周りの客たちから盛大に笑われた。
なんかイラつく。
「おぅーと!? そこの嬢ちゃん────、残念ながらクレカはこんな世界じゃ使えないぜ?
お支払いは・・・」
そんなことを司会者的な奴に言われて、絶望する。
どうしよう、"ここ"から京都なんて着く前に多分死ぬ。
想像もできない、そんなをしたことないから。
そもそも日本人だれもやったことないんじゃないの?
「────現金ならいいのか?」
私がその場で膝を着きながら絶望していると、後ろから聞き飽きている声が聞こえてくる。
「払ってやるから、クレカは返しなさい・・・。」
「パパ────!?」
今のパパかここのパパかは知らないが、今多分この"雪国"で私が一番恵まれているだろう。
親から200万円分程の切符を奢ってもらったのだから────。
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