第20話 超常現象:ブレ
その時、世界全体が歪んだ。
原因は間違いなく新たにこの場に介入してきた"紛い物"。
この世界にはルールが存在する。
そして今、そのルールを崩壊させた者たちは紛れもない"鹿野紅葉"である。
彼女達はある矛盾を生んだ。
同じ世界に同じ一人の人間が同時に存在する。
それはこの世が定めたどんなルールにも該当しない、例外────。
一種の"バグ"である。
"バグ"が起きると今回の場合、まずその世界の時間軸が崩壊する。
世界軸が崩壊すると本来であれば、時間の概念が消失し『過去』と『未来』が交じり合う。
だが世界はその崩壊を阻止しようと自然に抑止力を行使する。
その結果、時間の概念が消失することはないものの、『過去』と『未来』が互いに交じり合い混沌が訪れるのだ────。
◇◇◇◇◇
頭が割れそうだ────。
私は目の前に現れた"自分自身"という存在を知覚した時から味わったことのない頭痛を味わっていた。
その痛みに耐えきれずその場に蹲る。
それを見かねて黒崎が駆け寄ってくる。
「大丈夫か? 紅葉。」
「だい・・・、じょうぶ、じ・・・ゃない! 頭が死ぬほど痛いッ!!」
「・・・あいつ、紅葉にそっくりだけど。
双子かなんかか?」
「そ、そんなわけないでしょ!? 聞いたこともないし、くッ!」
頭痛が一向に収まる気配がない。
原因は恐らく目の前の"あいつ"、どの角度からどう見たって"鹿野紅葉"本人。
早くその原因をこの場から消し去ってやりたいけど、そんなことが出来ないくらいに頭痛がヤバい。
その頭痛が自分自身も紛い物であると強く訴えてくる。
「ダッサ。
なに這いつくばってんの? それでも私な訳?
ねぇ、学。 これほんとにこいつが私なの?」
「そうだよ、アレがこっちの彼女さ。
君と違って、落ちこぼれだし彼を殺す覚悟もない負け犬だけどね。」
「あっそ────。
もう二人とも殺していい? 早くしないとブレが起きちゃうでしょ?」
「確かにそうだね、このまま君たちが同じ世界に居るのはまずい。
早く殺してしまって────」
「少し待ってくれ。」
"私"が歩み寄ってくるところ、黒崎が彼女を制止する。
「急に殺すとか言われても、こっちは納得できない。
第一君は紅葉なんだろ? 自分のことを殺してなんになるんだよ。」
「ちょっと、黒崎黙っててくんない?
それに、納得いくいかないの問題じゃないのよ。
命を奪うものと奪われるものの間にそんな大義名分ありはしないのよ。」
「────だけど、やっぱり意味が分からないな。
なんで殺そうとするんだよ。」
彼の以前とは違う光がある黒い瞳で真っすぐ彼女の目を見る。
「────呆れた。
そんな目も出来たのね、あんた。
私が殺したあんたは完全に光を失ってたよ? よく戻ってこれたね。」
「余計なことしてくれちゃった人が居てね、渋々戻ってきたって感じだ。
────って、おい、ちょっと待てって。」
会話も途中のハズなのに歩みを進める彼女に再び声を掛ける黒崎。
「時間稼ぎのつもりなの? いくら経っても何も変わらない。
それともあんたからまた殺されたいの?」
「またって言われてもな。 まだ死んだことないし。
因みにどうやったらバットエンドに突入するんだ?」
「それはね────、あんたが私に踏み込み過ぎるとそうなるんだよッ!!」
回答とほぼ同時に黒崎へ向かって、突進する彼女。
彼女の握りこむ拳には悪意が充満している。
今の黒崎にそれを防ぐすべはない────、このままでは当たる。
すると彼女の攻撃が黒崎へと当たる直前、蒼い閃光がその攻撃を防ぐ。
「初対面にしては、まずまずの連携だ。
よくやった、黒崎。」
「か、会長────!?」
いつの間にか意識が戻っていたのか、タイミングを見計らって会長こと信条奏太朗が彼女と対峙する。
「意識が戻ってるのはわかってたんでね、・・・ただこんな風に守られるとは思ってなかったけど。」
黒崎は驚いたのか会長が繰り出した霊術に腰を抜かす。
「説明はあとだ────。
・・・貴様、紅葉君とはどこか雰囲気が違うな。何者だッ!」
「何言ってるんですか、会長。私も紅葉ですけど。
まぁ、少しだけ言い換えるなら私はまた違う世界の私かな。」
「!! 平行世界の人間か・・・、異物がなんのようだ。
このままでは"ブレ"が起きるぞ。」
「そんなことはわかってんのよ! だからさっさと私を殺そうとしてるんでしょ!?」
攻撃を防がれたあと、一歩後退していた彼女だったが再び今度は会長へと駆けだしていった。
彼女は自身に纏わりつく悪意を次々と"霊術"を使用した線で繋いでいく。
「なに!?」
「あれ? こっちじゃまだ霊術は教わってないのね、あいつ。
私が霊術を使うのがそんなにビックリした?」
彼女が繋いでいく悪意は命令されたかのように段々と形を変え、どこぞの螺旋する丸の様に彼女の手のひらに丸く凝縮されていく。
それは悪意の塊のようで、見ていて吐き気がする。
「零式、神楽(カグラ)!」
彼女は手のひらをため込んだ悪意の塊を放つように、会長へと向けた。
しかしその攻撃は会長の前に陣取る六角形の蒼い結界によって阻まれる。
「クソッ!!」
「口が悪いぞ────!」
会長は結界によって後方へと弾かれた彼女へ距離を詰めていく。
「敵であるなら躊躇はしないぞ。
六式、羅刹(ラセツ)!」
会長は彼女の魂を貫こうと、右手の手のひらにため込んだ蒼い閃光を彼女めがけて放出する。
しかしその攻撃は叶わなかった。
後ろでその戦闘を眺めていた浅峰の使用する紫色の霊術によって防がれたのだ。
「信条君、その術は良くない。
本当に彼女を殺してしまうよ?」
彼女は会長の攻撃は受けなかったものの、反射された衝撃で後方の壁へ衝突し意識を失う。
「彼女も一つの道を進み、ここまでやってきた一人の少女なんだ。
そんなことはさせないよ。」
「・・・お前の目的はなんなんだ。浅峰。」
この場を感情で制圧していた少女が舞台から退いたことによって、舞台が仕切りなおされる。
「そうだね、"今"の私の目的は戻ってきてしまった"黒崎"君を殺すことだよ。」
「────ちょ、ちょっと待った。」
彼女が意識を失ったことによって少しだけ頭痛が和らいだ私は浅峰の発言に対し、待ったをかける。
「く、黒崎を殺すって、あんたさっきと言ってることが矛盾してない?
あんたは黒崎の箔落ちした魂をなんらかの目的で欲していたはず、それなのに今は黒崎を殺す?」
「あぁ、そんなことも言いましたね、確かに。
ただそれは先ほどの事。君が目を覚ましてしまった以上、もうこちらの"世界"で君を育てる必要はなくなりましたので。」
浅峰はそういって、黒崎の方を一瞥する。
「さて、そろそろブレが起こりますね。
信条君、今回のブレは恐らく今までのものを軽く凌駕するほど過去最大規模のものだと思います。
私は彼女が目を覚ますまで身を隠します。目を覚ましたら彼女に君たちを殺しに行かせますのでご用心を。
それでは、また今度────。」
浅峰は先ほど"私"を呼び出した黒円を再び出現させ、その先へと"私"と一緒に姿を消していった。
「・・・まずいことになったな。」
会長は普段の冷静さを欠くように頭を抱える。
「どうしたんです? 会長。」
「とりあえず、皆こっちに集まってくれ。
ブレが起きるときに近くに居れば、あっちに移動するときに一緒に居れる。」
「あの、さっきからブレブレってなんだんだ?」
私も聞いた時から少し疑問に思っていたことを黒崎が代わりに質問してくれた。
「それはあっちに行ったときに説明する。」
「ん? あっちってどっち?」
すると先ほどまで気を失っていたであろう楓が意識を取り戻し、寝ぼけながらそう呟く。
「楓!!」
「あ、、もみじ!? 屋敷の外でまってるんじゃ・・・。」
「あ────、それは色々あって・・・。」
「来る────。」
「「「え?」」」
私と楓、そして黒崎は会長の一言を聞いた途端、目眩を起こした様に舞台が明転した・・・。
気が付くと、目の前にはとても大きな紅葉の木が立っていて、辺りはなんだか騒がしい。
「ここは・・・」
時刻は午前11時41分
舞台は過去。
この時、全人類が同時に過去へとタイムスリップしてきた。
そして、その超常現象を終わらせるべく、二人の"私"達の殺し合いが始まる。
~~~~
ブレ:平行世界同士の交じりが引き起こす宇宙規模のバグ(不具合)。宇宙間の時間軸が崩壊し、乱れることにより起こる時間軸同士の混合。
ランク:SS(人類滅亡に相当するランク。自然災害などは一律Fランクとしている。)
種別:超常現象
修正方法:ブレを起こした原因の排除
~~~~
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます