第15話 狂人心躍る
「あのー、会長と2人でさっきから何してるの? もみじ。」
お寺を後にしようと、正面の鳥居を潜ったところで私の親友である、橘楓がその姿を現した。
楓はどうやら日美子に会いに行った私の帰りが遅いのを心配して、校舎裏へ向かうとすでに誰の姿も見えなく、仕方なく校門前で私を待ち伏せしていたところ会長と一緒に学校を出るところを目撃し、
気になってここまで付けてきたということらしい。
「そ、れ、で、なんで会長と一緒にいるのよ、もみじ。」
「えーっとー・・・」
なんて答えていいかわからず、会長の様子を伺う。
「確か、君は二年の橘さんだったね・・・。
今日実はどうしても私から相談したいことが鹿野さんにあってね。
ただ学校や町中だと人の目もある、変な誤解をされては鹿野さんに迷惑が掛かってしまうからな。
それでわざわざ私の自宅まで出向いてもらって今自宅に送っていくところだ。」
どうやら会長は今からすることは秘密にする気らしい。
それについてはわたしも賛成なので話を合わせる。
「そうなんだよね、会長から色々相談されてさー。」
「────」
楓は無言の圧力で私を凝視してくる。
「あー、はいそうですか。
もみじが言うなら信用してあげますよー。」
よかった、一先ずこの場は切り抜けられそうだ。
「そういうことなんで、それじゃあね楓。」
明日がもうないかもしれないと思うと、「また明日」なんていう気軽な捨て台詞は言えなかった。
私達はその場で立ち尽くす楓の真横を追い抜いて、浅峰邸へ向かう。
◇◇◇◇◇
10分程歩いた。浅峰邸まではあと10分程度といったところだろうか。
「会長、気付いてます?」
「・・・」
私はお寺を出てから背後に付きまとう存在に先ほどから困惑していた。
「あのー、なんでついてくるの? 楓。」
「・・・もみじの家ってこっちじゃないよね。」
あぁー、そういえば会長に家まで送ってもらうというシナリオだったか。
当然そんなことはハッタリなのでついボロが出てしまった。
「実はこっちからも行けるんだよねー。」
「反対方向じゃん。」
しまった、言い返しが付けられないことを言ってしまった。
流石に無理があったか。
『会長!! どうしましょう!!』と表情で会長に伝える。
会長は『仕方がない』といった風に観念し、事情を説明する・・・。
「つまり、会長達は校長先生に用事があって今はその話をしに行く最中、それでお寺では実はその件で作戦会議をしていた。と」
そう、あくまで自然に、事実は隠し通す。
「そうなの、さっきは嘘ついちゃってごめんね。心配させちゃうかなと思って黙ってたの。」
実際、今も騙し、黙っているわけではあるのだが。
「なーんだ、そんなことか。」
どうやら納得してくれたらしい。
「それじゃあ私たちは校長先生に会いに行ってくるね!」
手を振ってこの場を後にする。
しかしまだ後ろから付けられている感じがする。
絶対にまだ付いてきてる。
「楓! 本当に校長先生に会いに行くだけだから!」
「いや、別にもみじたちが何しようとしてるのかはこの際私にはどうでも良いのよね。
ただ単にもみじと男、会長が一緒にいるのが怪しいというか。不安なの。
だから私も心配なんで付いていきます。会長がクソ野郎だったら取り返しが付かないし。」
なんだ、彼女は気にかけてくれていたのか。
私は普段男子生徒なんかとは黒崎ぐらいとしか喋らない。
そんな光景を約一年見てきて、今のこの状況を怪しい思うほど彼女は私のことを見て、考えてくれていた。
私はそれが何よりも嬉しかった。
それならば、余計にすべてを企んだ浅峰が許せない。
あいつや日美子がやってきたことは、楓の内側まで変えることは無かったものの、そのかわりやつらは楓の外側を変えてしまった。
人は中身というけれど、それは嘘だ。
人は外見が全て。
こんなにも優しい楓は外見の原因で、実は学年で今煙たがられてもいるのが事実ある。
その理由は明白で彼女の今の外見は派手めで騒がしくて内面を知らなかれば近づき辛い存在だろう。
そう、内面を知らなければ彼女にはだれも好き好んで近づきはしない。
内を知れる私や目的合って近づいた日美子を除いては。
そんな風に彼女を変え、あのままの彼女が受けるべきであったすべてのご加護が全て外見によって失われてしまったのだ。
それは彼女の人生のレーンを破壊したに等しい。許されない行為。
「なるほど、確かに橘さんの意見も理にかなっている。
現に私は今、自分がそのような危ない存在でない、という証拠も見せらない。
良いだろう、君の同行を許可しよう。」
「許可されなくても、付いていくけどね。」
そういって、親友は私の手を取り会長を追い越していった。
◇◇◇◇◇
午後十時。
私達"3人"は山奥に根城を気付く浅峰邸の敷地内に足を踏み入れようとしていた────。
ピンポーン
浅峰邸内でインターホンが鳴り響く。
「誰だ。」
静かな太い声がマイク越しに聞こえてくる。
「浅峰高校生徒会長の信条です。
浅峰校長にお話が────。」
「アポイントは聞いていない。
要件はなんだ。」
「"レイ"の件で、早急に相談しなければいけない問題があります。」
「・・・少し待て。」
「────。」
「門を開ける・・・。
待て、その女は誰だ。」
「彼女も問題の当事者に当たります。
同行の許可を。」
少したって、同行が許されたのか会長と親友は浅峰邸の正面から入っていった。
それを横の茂みに隠れながら私は見送る。
「よし、行くか。」
楓に伝えた表向きの作戦はこうだ。
二人が正面から堂々と屋敷に入って、残った一人が留守番。
屋敷に入るのは会長と楓。
浅峰邸に認知されている会長は勿論で、残りの一人は正直私でも楓でもどちらでもいいのだが、裏向きの作戦の為に居残り役は私になった。
裏向きの作戦はというと、二人が正面から堂々と屋敷内に入り込み、屋敷内をコントロールする。
残ったもう一人が屋敷内に潜入し、浅峰徹の悪事を暴く。
具体的に言うと、浅峰徹が企んでいることを突き止め、それを金輪際阻止するということだ。
私に課せられたミッションは一介の女子高生が成せるものではないと分かっていながらも、今の私にはそれを可能にする覚悟があった。
会長たちが屋敷に入ったことを確認し、敷地を囲うように建てられている柵を隣に生えている木を使って身軽に乗り越える。
外からはあまり見えなかったが、中は庭園の様になっており噴水や花壇などが敷き詰められている。
柵を乗り越えた先は運よく木々が重なり合っていて屋敷内からは目も向けられない場所だったため、気付かれずに済んだ。
「警報の類は、特に作動していないみたい。」
重なり合う木々を払いのけながら、屋敷へと近づいてゆく。
ここから屋敷までの距離はざっと40メートルくらいで、木々を抜ければすぐ目の前に現れるだろう。
「うわー、なんか洋館みたい。」
屋敷というだけあって、浅峰邸はどこぞの海外にあるような洋館そのものだった。
屋敷の部屋は何か所か光が漏れており、それを頼りに光が見えない部屋の窓際に移る。
「誰もいないか。」
念のため、部屋を覗き込み誰もいないことを確認する。
「ナイス、これどうやったら開けられる?」
今日かなりほったらかしにしていた指揮官に尋ねる。
『この窓の内側からのクレセント錠で閉ざされており、窓を破壊する以外に外側から侵入する手段はありません』
「まじかー。」
早速積んでしまった。
せっかく会長たちが中の人たちの相手をしているというのにそれが無駄になってしまう。
「ナイス、この屋敷への潜入ルートは他にない?」
『この敷地全体をスキャンします、お待ちください』
「え!? そんなことできるの? やるー、ナイス!」
『管理者権限の特権になります。
スキャン完了、ここから右に三つ移動した部屋の三階に位置する部屋の窓が開錠されていることを確認しました』
「は!? 三階!? できれば一階に合ってほしいんだけど。」
『正面の出口は既に閉ざされており、他に潜入可能な入り口は他に存在しません』
「まじかー・・・。」
再び積んでしまった。一体どうしたものか・・・。
「ねぇ、ちょっと本当に窓割れても誰にも気付かれないんでしょうね!?」
『はい、問題ありません』
私は等々いてもたってもいられなくなり、今誰もいないであろう部屋の窓へと全力で飛びこんだ。
パリンッ
窓を割って屋敷内への潜入に成功する。
これでは潜入というより突入だが。
中は予想通り誰もいなく、部屋の中は暗い。
そしてこの部屋に近づいてくる足音も特に感じなく、無事に突入は成功したらしい。
『熱反応なし、半径10メートルにあらゆる"生命"は存在していません。』
「熱反応って、そんなこともできるんだ。」
『管理者権限になりますと、コンピュータができることであればなんでもできると思ってもらって結構です』
「そうなの!? ナイスってすごいのね。
ねぇ、それじゃあ早速なんだけどこの屋敷の見取り図って出せたりする?」
『はい、こちらになります』
液晶に映し出された屋敷の見取り図を確認する。
どうやらこの部屋は屋敷の最南端に位置する部屋らしい。
「校長の自室ってどこだかわかる?」
『浅峰"学" の自室は三階の中央に位置しています。
この部屋をでて、右にある階段を使用してください。』
「? あぁ、了解、ありがと。」
ナイスに言われた通り、階段へ向かうために部屋を出る。
屋敷の廊下は赤い絨毯が敷かれており、壁には一定間隔で火が灯るランプが飾られていた。
そこを歩いても足音が響くことはなく、その不思議な違和感が段々と募ってゆく。
ガチャリ
後方からドアが開かれる音が聞こえた。
数人の男たちが出てくる。
生命は存在しないと、のナイスの通知で完全に油断していた。
目の前に人が居た。
生憎とまだ相手は私を察知していない。
────気が付いたら私は彼らに向かって走り出していた。
絨毯のおかげで足音はそう目立ってはいない。
私は彼らに何をしようとしているのか、自分でもよく分かっていない。
今分かっているのは、私は"まだ"気が付かれていない、ということだけだ。
その可能性に私は脊髄反射で足を動かしていた。
標的は三人。
誰も背後に迫るハンターには気が付かない。
その背中に呆れながら一番手前にいる男に狙いを定める。
────勿論私に人を殺した経験なんてないし、ましてや殴ったことも多分ない。
そんなひ弱な自分が行う攻撃行動はただ、今私ができることをする。
今私ができることがあるとすれば、彼らから湧き出る悪意を自らのモノにして武器に変えるだけだ。
グチャリ
あふれ出る悪意を握りつぶす。
そしてその悪意は一人の少女によって浄化され、別の形へと姿を変える。
ブンッ
手に握られているのは黒く染まった一本の棒。
"これ"は人類が築き上げてきた法則を捻じ曲げているグレーゾーンのしろもの。
悪意の大きさで強度が上がり、そして悪意のもつ凶暴性をこの棒は備えている。
その棒を私は一切の躊躇なく、男の横腹へと叩き込む。
棒を振るのに力なんていならない、これの元は感情なんだから。
振るわれた棒は男の肉体へとめり込んでいき、身を宙に浮く。
失笑、獲物は抵抗する暇もなくその体を壁へと叩きつけられた。
そしてここでやっと、前方の男二人がハンターの存在に気付く。
「誰だ!」
五月蠅い。
空を切る黒棒。
返しの一振りでもう一人を無力化させる。
別に棒に力なんて込めていない、"これ"はそういうものじゃない。
残り一人の獲物へと一歩踏み込む。
「狂人め!!」
一体だれの目を見ていっているんだ、そんな視線はもう見飽きている。
手に持つ棒を手足の様に自在に操り、男の魂を突く。
私に霊術の教えはない。
あの地下での戦闘で見たあの技の見よう見まね。
どうやらその冒険は結果を得たようだ。
男は抜け殻の様に赤い絨毯へ倒れこむ。
私は右手から塵の様に消え去る棒を見送って、二階へと足を運ぶ。
「こんなところで何してんだ。 紅葉。」
二階の廊下に佇む男、黒崎孝文は普段とかわらない様子で私に呼びかけてきた。
その呼びかけに闇に埋もれていた私の心は這い上がってきた────。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます