第五十話
後日の土曜日。私は仕事に行った両親から頼まれたお使いで、ショッピングモールにて開催されている北海道物産展に朝一で訪れた。
早速老人たちに紛れて、目当てのルイベ漬けと濃厚そうなプリンを購入。
そして目玉商品である黒毛和牛を贅沢に使った弁当を家族分購入。今日の白川家の夕食である。
その後、休憩のために、これまた濃厚そうなソフトクリームを購入し、簡素な飲食スペースへ。
百井とここに訪れる案もあった。しかし、見ての通り、どこもかしこも老人ばかり。少なくとも小娘たちが来る場所ではない。
物産展での用が済んだことなのでショッピングモールを軽く見て回る。荷物は重いので一度コインロッカーへ。
再びゲームコーナーを訪れた。
目的は最近入荷した例のレースゲームを遊ぶため。ちょっと遊んでみたいと思っていた。
設置途中に見えた筐体の外見的に新作のわけではなかったけど、遊んだことのない古いゲームは新作と変わりない。そこに私を引き寄せる魅力がある。
しかし、出鼻をくじかれた。
今日は土曜日。休日ゆえに客が多く、二台ある例のレースゲームは順番待ちができるほどの盛況ぶり。まあ、並ぶほどではない。
今回はそれとなく後ろを通ってどのようなゲームなのかを見るだけに留める。
大まかな流れとしては、複数のプレイヤーが近未来的な雰囲気の街中を改造車で爆走してゴールを目指すもの。筐体は運転席の構造が一通り再現されている。シフトレバーがある以上、MT車なのだろうか。
私の両親はどちらも車好きで、普段からMT車を運転している。私が車の免許を取る場合は、AT限定免許は許さないと言われている。横暴だ。
とは言え、かく言う私もシフトレバーの操作にロマンを感じる。血は争えない。
他に気になった点は、画面の端に表示されている賠償金という名の物騒なゲージ。NPCが操作する車に接触したり、建造物を破壊することで加算されるスコアのようだ。
今遊んでいる人たちは、どれだけ賠償金を科されるかを競い合う変わった遊び方をしているようで、リザルト画面には億万長者の総資産をはるかに上回る賠償金が表示されていた。
実際の運転では許されない操作をテクニックとして昇華できるところがこのゲームの裏の醍醐味か。
ついでに百井がよく遊んでいるらしい音楽ゲームでも遊んでみよう……と思ったけど、そちらも順番待ちができていた。まあ、並ぶほどではない。
代わりにご意見箱へ音楽ゲーム筐体の増台の要望を送っておいた。匿名だし、学校の投書箱よりも機能していることは明白。
今日はもう大人しく帰ろうと思い、入り口の方へ。
近くのクレーンゲームを中学生くらいの黒髪の女の子が遊んでいた。筐体を横から覗いたりと何かと必死である。
女の子はプレイ回数が終わったところで足早に付近の両替機へ行き、再び戻ってきた。
いつものゲームコーナーの光景なのでクレーンゲームを素通りした。
すると、通り掛かった両替機では看過できない事態が起こっていた。
「あの……」
私は原因のクレーンゲームを遊ぶ女の子に声を掛けた。
「な、なんですか? ナンパもハイエナもお呼びじゃありません」
振り向いた女の子は私を見て不審そうに言った。
「いや、そうじゃなくて、両替したお金取り忘れてますよ」
私はそう言い、両替機を指差した。
両替機から取り忘れの九千円が寂しげに飛び出ている。
「えっ……ほんとだ! すみません、教えていただき、ありがとうございますっ」
「いえ」
女の子は両替機へ向かったので、私はゲームコーナーを後にした。
にしてもハイエナはともかく、ナンパとは。私はしたこともされたことも無いと言うのに……さっきのあれは、されたとカウントしていいのかな。
先ほど物産展にて、腰を丸めた見ず知らずのおじいさんから「お嬢さん……家内の若い頃にそっくりだ。お茶でも一杯どうだい~?」と戯言を言われた。
そんな戯言に対して私は「待ってる人がいます」と、こじゃれた嘘で返答しようとすると、奥さんと思わしき
恐らくあの手の老人は普段から同じ文句を用いてナンパ紛いのことをやっているのだろう。つまりナンパされたとはカウントされない。
ちなみにおば様は、私とは全然似てなかった。
尤も、人の風貌が経験によって劇的に変わることは、ストレス社会に生きる人類の歴史が物語っている。
私は自分の五十年くらい先の姿など想像できない。
そんな先のことよりも、もっと目先の事柄を注視する。
今日の夕食のことや、それこそ百井の誕生日とか……家に帰る前にギフトサロンでも見ておこうかな。
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