第十七話
テスト勉強の休憩がてら、風呂に入ってきた。
ちょうど携帯電話の充電が終わったことなので、自撮りに挑戦しようと思う。
携帯電話のカメラと言っても馬鹿にはできず、性能は向上し続けている。
その勢いは留まるところを知らず、写さなくていいものまで写してしまう。指紋や瞳の映り込み、顔のシワなど。
私は携帯電話の数ある機能の中でも、特にカメラが全く使いこなせていないので、宝の持ち腐れである。とは言え、その威力を発揮させず、腐らせるのは勿体無い。
すっぴんだけど撮った写真を誰かに見せるわけでもないし、とりあえずやってみよう。
先ほどの百井の撮り方を参考にすると……こう、携帯電話を片手で持ち、少し斜め上に構える。おお、小顔エフェクトが過剰に発動している。先ほど風呂に入ったから血色もいい。
どれ、まずは一枚、とシャッターを切るや否や、手から携帯電話が零れる。まずいっ。
そのまま重力に引かれ、床を目指す携帯電話を間一髪で掴み取り、事なきを得た。
危うく画面がバキバキに割れた惨めな姿にするところだった。私の反射神経は、まだ衰えを見せていなかったようだ。
保存された写真を確認する。
一応撮れたようだけど、ぶれが凄まじい。むしろ躍動感があって味があるのでは。流石に無理があるか。
百井は一回の撮影でそこそこの写真を撮っていた。普段から自撮り技術の研鑽を怠らず、写真加工アプリも使い慣れているのかも。
そういえば百井の携帯電話の背面には指を通すリングが付いていた。私はシンプルなカバーを付けているだけ。あのリングの補助が安定した自撮りを可能にしているに違いない。
私が一人納得していると、廊下から我が家の猫の声がした。
その声に従い、私は自室のドアを開けた。
すると、ドアの近くにいた我が家の猫は、すぐさま部屋の中を駆け抜けて、私のベッドを陣取った。気まぐれなやつめ。一方、私は持て余しているソファーに座った。
布団の上のベストポジションで丸まった我が家の猫の様子を眺めていると、ふと閃く。
そうだ、猫を撮ろう。
この愛らしき小さな猛獣の姿を写真に収める。
出先で心が
今まではペースト状のおやつをあげたり、おもちゃを使って遊ぶことで愛情を伝えていたけど、これもまた一つの愛情表現と言えるだろう。
その後、私が本来の目的を忘れてしまうほど、我が家の猫の写真や動画の撮影に魅入られ、のめり込んだことは言うまでもない。撮影は沼。
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