第七話
百井を
「近くに公園あるし、そこでいいんじゃない?」
苦悩する私を見かねた百井が妙案を出す。
「あ、あー、いいね、公園。そうしよう。私もそれがいいと思ってた」
「ほんとに?」
眉をひそめる百井の案を採用し、私の無計画さが露呈する前に
百井と公園までの並木道を歩く中、何か話題を振らねば、と思い思考を巡らせた。けれども、この時期特有の再放送のドラマやアニメについての話と言ったどうでもいい話しか思い浮かばない。
目的としていた百井の夏休みの過ごし方を聞こうにも、家庭の事情が関わってくるから問題だから気が引ける。では私は何のために百井を繋ぎ止めたのか。
「百井は宿題やってる?」
私は結局名案が思い付かなかった。かと言って、このまま無言を貫くのも差し障りがあるので、無難な話題を百井に振った。
「手付かず。白川さんはどうなの?」
百井は清々しい笑顔を見せた。
「やることがなかったから終わらせちゃった」
「ふぅん、私もそろそろやろうかな」
「今日は他の友達はどうしているの?」
「他の友達?」
百井はそう言い、首を傾げる。
「ほら、学校でいつも一緒にいる三人」
「……ああ、あいつらのことか。さあ、どうしてんだろうね……あっ、そんなことより、あそこの自販機で飲み物買おうよ」
「あ、うん」
道の途中にあった自販機でお茶を買い、ほどなくして目的地の公園に着く。
この公園は外周に沿って針葉樹が植樹され、付近にはスポーツ少年団の練習や試合で使われるグラウンドやテニスコートが併設されている。
公園の高台には、この街のシンボルと言える原寸大のロケットの模型が天を衝き、そのロケットの横には同じくらいの高さのビルが隣接する。なんとも場違いな建造物だと住民から評判である。
散歩コースの道を百井と歩いて中央の広場まで行き、噴水の近くにある涼しそうなベンチに二人で並んで座った。
座り次第、右隣の百井は周りを見回した。
「人いないね」
「夏だからかな」
夏祭りと関係があるのかわからないけど園内に人は見当たらなかった。公園の入り口の近くにある、テニスコートなどを借りるための受付小屋にいたおばちゃんくらいだった。
「そうだ、たこ焼き食べる?」
「いいの? 食べたい」
「じゃあ半分こね」
百井が何を持っていたのか気になっていたけど、たこ焼きだったか。
屋台のたこ焼きは大抵美味しいから、この申し出はありがたい。私が外れを引いてこなかっただけかもしれないけど。というか半分もいいのか。
「はい。お先にどうぞ」
百井から二本付いていた爪楊枝の内の一本を渡されて、たこ焼きが入った容器を差し出される。ソースとマヨネーズ、青のりと鰹節がかかったオーソドックスなたこ焼きだ。
「では、お先にいただきます」
遠慮なくたこ焼きを口に放り込む。ソースとマヨネーズの味が口の中に広がる。生地からは何かしらの出汁の風味を感じた。昆布だろうか。少し冷めているけど、むしろ食べやすい温度と言える。美味しいたこ焼きは冷めても美味しい。中身のタコは……そこそこ大きい。当たりだな。
「どう?」
「うん、美味しいよ」
「よかった……うん、美味しい」
「祭りどうだった?」
「まあまあかな。あ、射的あったよ」
「射的? そんなのあったんだ」
私の知る限りでは食べ物か怪しい商品しか当たらないくじ引きの屋台しかなかったのに。どういう風の吹き回しだ。
「今から狙い撃ちに行っちゃう?」
「やめとこ。カモられたくないし」
「だね」
たこ焼きを食べ終えて、ふとアイスを買っていたことを思い出した。
「そうだ、アイス食べる?」
私はそう提案した。
「いいの?」
「家に着くころには溶けちゃうからさ。どうせなら食べてくれると嬉しいな」
「じゃあ、いただきます」
「はい……そういえば、その浴衣似合ってるね」
「そう? ありがと」
百井はそう言い、袋を開けてアイスをかじった。
「ナンパとかされたんじゃないの?」
「そんなのされないって。それにさっきまで中学の同級生と一緒だったからね」
「ふーん」
「まあ、その子ら他の学校に通っているから空気感のギャップがあってさ。居心地悪かったからすぐ帰ってきたわけ」
百井は少し寂しそうな顔をした。
「そうなんだ……なんかごめんね」
「なんで白川さんが謝るの」
「だって、そんな地獄みたいな出来事。私だったら一刻も早く家に帰って寝て忘れたい」
「別にそこまでではないけど……」
百井は苦笑いを浮かべた。
「なのに私、呼び止めちゃって」
「いや、いいよ。ちょうど暇してたし。遊び足りないくらいだったから」
「それならよかった」
「ちょっと残念なのは白川さんの浴衣姿を拝めなかったことかな。そのワンピースも……」
百井の言葉は何処からか現れた黒褐色の物体が発する重低音で遮られた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます