第66話 遭難Ⅲ

 遭難してから二日目を迎えた。

 今日も朝からアヤメと森の中を散策。

 食料となるモリノコを探しつつ、この森を抜ける道はないか、近くに集落はないかと歩き続けた。


「ダメね……。こっちの方向もどこまで行っても森ばっかりね……」

「どれだけこの森は広いんだよ!」

「やっぱり、あの湖の近くに居て見つけてもらうのを待つしかないかな……」

「そうするか……」

 俺たちはふと崖を見上げた。

「あの高さから俺たちは落ちたんだよな……」

「もしレイナたちが助けに来てくれているなら、そろそろこの辺りに辿り着いてもおかしくないころなんだけどな……」

「もしかして、白銀鱗の大蛇竜ハクジュオスにまた遭遇したとか……」

 そんなこと考えたくなかったがつい口から出てしまった。

「その可能性も無きにしも非ずだね……」

 二人暗い顔になる。

「そんなこと、今は考えずにレイナが助けに来てくれるのを待とう!」

「そうだな!」

 俺たちは再び森の中を歩き続けた。


「ぁぁぁぁあああ―――――――――――――‼」

 突然、森中に悲鳴が響き渡った。


「……今のは⁉」

「あっちの方から聞こえたね!」

 俺たちは悲鳴が聞こえた方へと走り出した。

 すると――。


 ――ザワザワ

 茂みの中が揺れ出した。


「もしかして……」

白銀鱗の大蛇竜ハクジュオス⁉」

 俺は剣を構えた。


 ――ザワザワザワ 

 茂みの中から何かが現れた。


「……わっ……⁉」

「って、何だ……ガモリか……」

「待って、もしかして……⁉」

「こいつ……⁉」

「ガモちゃん……⁉」

 茂みの中から現れたのはガモリ。

 それも俺たちがこれまでずっと乗ってきたガモリじゃないか。

 その証拠にガモリのシートにはしっかり俺たちの荷物をぶら下がっていた。


「よしよし、元気だったか? 一人にしてごめんね、ガモちゃん」

 アヤメは駆け寄りガモリの頭を撫でる。

 すると、いつものようにアヤメの顔をペロペロと舐め回すガモリ。

「もしかして、私たちを探してここまで来てくれたの?」

 ガモリに人間の言葉が通じるとは思わないが、どこかそうだと首を縦に振っている様に見える。

「よしよし、ホントにいい子だ!」

「でも、よかった! ガモリに乗れば、この森も簡単に抜けられそうだな!」

「うん! 早速、出発しよう!」

 俺とアヤメはガモリに乗り、森の中を駆け抜けていった。


 でも、どっちの方向へ向かえばこの森を抜けられるんだ……。

 手がかりもなく、ただ只管に森の中を進むで行く俺たち。

 しばらく、走り続けた時だった。


 ――ド――――――――――――ン‼


 遠くの方で大きな音が聞こえたのだった。


「……な、なんだ、今の音?」

「爆発ぽかったけど……⁉」

「俺もそう聞こえたけど、こんな森の中で一体、何で?」

「分からない……けど、向かうしかないよ!」

「そうだな!」

「ガモちゃん、あっち!」

 爆発音がした方へと向かった。


「アヤメ! あそこ、爆発の煙が上がっているのが見えない?」

 遠くの方で微かに煙が上がっている。

「ホントだ、あの煙を目印に向かおう!」

 煙が立ち昇る方へとガモリを走らせた。


 ――オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛


「この声は……⁉」

「間違いない、白銀鱗の大蛇竜ハクジュオスだ!」

「こんなところにまで、やって来るなんて……」

「……白銀鱗の大蛇竜ハクジュオスの雄たけびに……さっきの爆発音……」

「私も何か嫌な気がする!」

「もしかして、また誰か襲われてたりすんじゃ……?」

「助けよう! ガモちゃん、お願いもっと速く!」

 ガモリの走るスピードを上げ、俺たちは森の中を全速力で駆け抜けた。

 そして、深々と木々が生い茂る森からようやく抜けられそうな森の出口がだんだんと見えて来る。


「見えた、広い高原だわ!」

「……あれは白銀鱗の大蛇竜ハクジュオス!」

「エン、あそこに騎士さんが……大変、襲われているよ!」

「助けよう!」

「オッケー! いけー!」

 俺たちは森の中から勢いよく飛び出したのだった。

 そして、一直線に白銀鱗の大蛇竜ハクジュオスへと駆けていく。


「エン、このままだと私たちも襲われない?」

「大丈夫! アヤメ、このまま全速力で向って!」

「分かった、エンを信じるよ!」

「ありがとう!」


「エン!」

「おう!」

 俺はガモリの上で《焔光の剣》を突き上げた。

「たああああああああああっ――――――!」

 《焔光の剣》の先から、燃え滾るオレンジの炎。

 やがて、大きな炎の剣となり、そのまま白銀鱗の大蛇竜ハクジュオスに向かってぶつかっていく。


「食らえ――――――――――――‼ バケモノ――――――――――――‼」


 ――バ――――――――――――――――――ン


 全速力で走るガモリの勢いそのまま俺は《焔光の剣》で燃え滾る炎を白銀鱗の大蛇竜ハクジュオスの顔を目掛けて振り抜いた。



「どうだー‼」


 ――オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛ 

 顔に出来た大きな傷口からは大量の体液が噴き出しながら、白銀鱗の大蛇竜ハクジュオスはその場に倒れ込んだ。



「今のうちにー‼」

「任せて‼ 伸びろ―!」

 アヤメはムチを振りかぶった。

 どんどん伸びていくムチは、襲われていた騎士に巻き付く。

 そして、ガモリの上へと引き寄せると、騎士は見事にガモリの上へと乗せる。


「あなたたちは……。一体……⁉」

 いきなりガモリに乗せられた騎士は唖然としながらもそう尋ねた。

「私たち……? そうね、強いて言えば、レイナの友達だよ!」


「……友達⁉ あっ、もしかして遭難していたレイナの……⁉」


「その話はまた後でいい? エン、アイツが起きるする前にコテンパンにやっちゃって―――!」


「おう、任せろ!」

 俺はガモリから勢い良く飛び降りた。

 そして、地面に蹲る白銀鱗の大蛇竜ハクジュオスに向け、再び剣を大きく振りかぶった。



「ああああああああああああああっ――――――!」

 大きな炎が宿った剣を振り抜く。


 

「これで終わりだ―――――――――――――‼」


 ――バ――――――――――――――――――ン


 炎の剣はついに白銀鱗の大蛇竜ハクジュオスの太い胴体を真っ二つに斬り抜いたのであった。


 ――オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛

 胴体を切断されても、その場でなお激しく藻掻き続ける白銀鱗の大蛇竜ハクジュオス

 やがて、燃え滾る炎の中で、息絶えた。

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焔と炎―エントホノオ― 〜憧れていた異世界は弱者では生き残れない残酷な世界でした〜 @賞 @ashow39

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