第50話 星空の約束

「やっぱり、ここからだとすごく良く見えるね!」

「ホントだ、星がこんなにたくさん!」

 俺たちは綺麗な夜空を眺めるために丘の上へとやってきたのだ。

 そして、二人並んで草むらに座り、夜空を見上げた。


「うぁ――、すげ――!」

「わぁ――、ホント綺麗だね――!」

 世界一高いこの場所から見える夜空。

 そこには数え切れないほど満天の星が輝きを見せていた。


「元の世界だと、こんな綺麗な夜空を見ることなんて絶対できないよ!」

「ホントだ! 星ってこんなにたくさんあるんだな!」

「ここまで来るのは大変だけど、登って良かったー」

「そうだな!」

 しばらく、輝く夜空に心奪われていた。



「ねぇ、一つ聞いてもいい?」

「何?」

「エンはこっちの世界に来た事、どう思うの?」

「この世界に来た事?」

「うん」

「そうだな……、正直、俺はずっとこの魔法の世界に憧れていたんだ。元の世界が退屈で嫌いだったから……」

「私も、元の世界が嫌いだった……」

「えっ? 意外……⁉」

「そんなことないよ!」

「だって、レイナは……」

「私が何よ?」

「いつも、傍にはイケメンの彼氏がいて、嫌なことなんか無さそうじゃん!」

「はぁー? そんなこと全然ない! てか、エン、秘かに私の事を見てたんだ?」

「いや、そういうのじゃなくて……。ほら、俺のクラスにまでレイナの噂が流れてくるほど、男子の中でレイナのこと……」

「何よ?」

「人気というか……有名というか……」

「エンのクラスにも私の噂が流れていたのね……はぁ……」

 落ち込む様子のレイナ。

「でも、そんなに人気な事は悪いことじゃないだろ?」

「そんなことないわ! 付き合ってもない先輩と付き合っているとか学校中に噂を広められて……こっちは本当に迷惑してるのよ!」

「えっ? レイナは、いろんな先輩と付き合っていたんじゃないの?」

「もう、エンまでそんな噂を信じちゃって……私、誰かと付き合ったことないわよ」 

「え、本当に⁉ 良かった!」

 その言葉を聞いて思わず、本音が漏れてしまった。

「良かった?」

「あっ……いや……その……そう意味じゃなくて……」

「まーた? 私がビッチとか、学校中の男子を何股もしているとか思ってたんじゃないの?」

「思ってない! レイナはそんな奴じゃないって信じていたよ!」

「ホントに?」

「ホント……。でも、レイナを学校で見かける度、いろんな先輩と歩いているのをよく見かけたから……」

「それはね、全部向こうから、しつこく付きまとわられていただけ! 休み時間も登下校中も……」

「うわー、そうだったんだ……。それは大変だったな」

「大変ってもんじゃないわ! 何回、断ってもしつこし、おまけにその人の事が好きなクラスメートの女子たちからは距離を置かれるし……。中には嫌がらせなんかもする子もいて、本当、私、学校生活が嫌で嫌で仕方が無かったんだ……」

「そうなんだ……。レイナがそんなに困っていたなんて全然、思ってもいなかった……」

「あの日だってそうだよ?」

「あの日……?」

「エンとぶつかったあの日」

「あー、校舎裏で先輩といたよね?」

「……見てたんだ?」

「いや、ぶつかった時、ちょっとだけ見えて……。そういえば、あの時のレイナ、泣いていたよな?」

「そうだったかも……。あの日も先輩に呼び出されて、校舎裏でしつこく言い寄られていたの……。今は彼氏を作る気はないって何回も断ったんだけど、彼氏が居ないんだったらいいじゃん?とか。好きじゃなくてもいいから彼女になってよ!とか。あまりにしつこくて……」

「それはひどいな」

「うん、それで何回も断っていく毎に、向こうもだんだん口調が強くなってきて、無理やりにでも……って感じになったから……私、怖くなって思わず逃げたの……そしたら……」

「俺とぶつかったんだ……」

「ねぇ? あの時、キスしたよね、私たち?」

「キ、キス!?」

 確かにあの時、レイナとキスをしてしまった。

 でも、あれは完全な事故だ。

 とは言え、本人の前でしたと認めるのもなんか恥ずかしい……。

「えっと……したような……してないような……?」

「あ、ひどい! あれ、私のファーストキスだったのに……⁉ 覚えてないとかひどい!」

「……えっ、あのキス!? そうだったの!」

「あっ、やっぱ、ちゃんと覚えているじゃん!」

「いや、 あれは事故だから、それにあっという間だったから何が何だか……」

「人生初めてのキスをエンにあげたのにその謝り方は傷付くなー」

「ゴメン、本当にゴメン‼」

「あはは……、もうそんなにマジになって謝らなくても……」

「でも、レイナはキスしてしまったことに怒ってないの?」

「全然、怒ってないよ! だって、あのキスがなかったら、この世界に来ることができなかったじゃん!」

「……そうかもしれないな」

 どういう理由か未だに分からないが、確かにあのキスがあって、こっちの世界に飛ばされたのだったのだけは今でもはっきりと覚えている。

「私、この世界に来られて、本当に良かったって思っているよ! もう、人間関係に悩む必要もないし、毎日見たことのない物と出会えて、楽しい冒険ができるんだもん! 最高じゃん!」

「うん! 俺もこの世界に来てから毎日楽しい! これからどんな冒険が待っているのか考えるだけでワクワクするし!」

「うんうん!」

 レイナと意気投合したが、すぐに暗い顔をする。

「でも、私たち、一生、この世界で暮らすのかな……」

「俺もそれは思っていた……。この世界がいくら楽しくても、いくら元の世界が退屈だったとしても……。戻れる方法があるなら……戻りたいなって……」

「うん、私も……。学校は嫌でも家族は好きだもん! やっぱり、このまま家族と離れ離れになるのは寂しいし……」

「だから、何とかしてでも、一緒に帰ろうな、レイナ!」

「うん!」


 二人が見上げる夜空には、無数の流れ星が流れていった。


「うわぁー、すごいよ! 綺麗な流れ星がいっぱいだよ!」

「ホントだ‼」

「そうだ、何か願い事しなきゃ、そうね……」

「俺も……」


「レイナは何を願ったの?」

「無事に帰れますようにって! エンは?」

「俺も同じ!」

「きっと帰れるよ!」

「うん、俺もそう思う!」

「それまで死なないでよ!」

「縁起でもないこと言うなよ!」

「冗談、冗談! エン?」

「何?」

「これからもよろしくね!」

「こちらこそ、レイナ!」

 その後も二人、夜空を煌めく流れ星を眺めていた。

 

 絶対にレイナと元の世界に一緒に帰るんだ!

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