第49話 望遠魔鏡

「ねぇ、あれは何だろう……?」

 しばらくして、レイナは何かを見つけた。

「何が見えるの?」

「黒くて……なんだろ、良く分からないけど変な世界が見えるの……?」

 レイナは夢中になって覗いていく。

「んっ……? キャッー⁉」

 レイナは急に驚き、その場で尻もちをつく。


「どうした、レイナ? 大丈夫か⁉」

「今、誰かがこっちを見たような気が……」

「えっ、誰か?」

 代わりに覗こうとした時だった。


「そこまでにしておきましょう!」

「え……?」

「望遠魔鏡で覗くのはここまでにしましょう!」

「でも……」

「おばあさん、あの黒い物は、一体、何だったのですか⁉」

「あれは……闇世界の輪郭の断片です」

「……輪郭の断片?」

「みなさんはこの世界にあった光と闇の戦争のお話はご存知ですか?」

「……はい」

「レイナさんがご覧になった闇世界の輪郭の断片より向こう側は戦争の終わりと共に消滅し、失われた領土ロストワールドとなったのです……」

「え? じゃあ、あれは失われた領土ロストワールドとこの世界の境界線ってこと?」

「そうです。消滅後から五十年ほど経ちますが、ずっとあの様な姿のまま……」

「あの先、失われた領土ロストワールドには何があるのですか?」

「何もありません。と言っても失われた失われた領土ロストワールドまで行って帰ってきた人は誰一人いませんが……」

「誰一人……?」

「昔、ある人たちがあの場所まで向かったと聞きます。しかし、彼らは行ったきり、未だに戻ってきません。それ以降、非常に危険な場所だという噂が広まり、今では誰も向かおうなんて思いません……」

「そうなんですね……」

「あの、さっき私が見たんです……。その、誰かの人の顔の様な物が……‼」

「きっと、気のせいでしょう。黒い闇、以外に何も見える物などありません」

「でも……あれは……多分、人の顔でした……! もう一回!」

「なりません!」

「えっ!」

「絶対になりません。あの闇は人に災いを呼ぶものです。迂闊に覗くものではありません!」

「分かりました……」

「みなさん、十分に楽しめたところで、折角ですし、お茶でもいかがです?」

「ありがとうございます!」



 その後、テーブルを囲み、お茶をいただいた。

「この大地なる世界樹アースユグドラシルの頂上で採れた葉の紅茶です」

「あ、いい匂い~!」 

 お茶を飲みながら、おばあさんはこの世界についてもっと詳しく教えてくれた。


「ねぇ、エン……? 私、このおばあさんになら、私たちの事を話してもいいんじゃないかなと思うんだ」

 しばらく、おばさんの話を聞いて、レイナが小声で俺に話す。

「そうだな、これだけこの世界について詳しんだ。何か元の世界の事も知っているかもしれないな」

「どうしましたか?」

「あのですね……実は私たち……」

 俺たちはおばあさんにも異世界から来たことを打ち明けた。

「ほう……異世界ですか……⁉」


 おばあさんは俺たちの話に驚きながらも、信じて聞いてくれた。

 しかし、肝心な元の世界への手がかりは、何も一つ得られなかった。

「ごめんなさいね……。何もお力になれず……。でも、とても興味深いお話でしたね。まだ、この街にいるのでしたら、私なりに少しあなたたちの世界の事を調べてみようかと思います。また、何か分かりましたら連絡いたしますので!」

「本当ですか⁉ ありがとうございます!」

 そう言い残し、俺たちは天文台を後にした。



「いっただきまーす!」 

 メル・ブルーの街の酒場。

 久しぶりの保存食以外の食事を目の前に、三人は心踊らせていた。

「わぁー、おいしいそう!」

 折角、大地なる世界樹アースユグドラシルの頂上まで登ったんだ。

 ここでしか食べられない御馳走を堪能しようじゃないか。

 テーブルの上には豪華なステーキやサラダが並んでいった。


「うめっ―――――‼」

 新鮮な魔力マナで育てられたお肉や野菜。

 その味は格別だった。

「にゃぁ――――!」

 ニャーも大満足だ。


「いや、食ったー! 食ったー!」

「ここの料理、美味しかったね!」

「私も久しぶりにお腹いいっぱい食べちゃったよ! お腹、大丈夫かな……」

 お腹を擦りながら歩くアヤメ。

 食べ過ぎて少しふっくらしたお腹よりも、その上のふくよかな物の方が……。

 いやいや、そんな目で見たらダメだ。


「二人、先に宿に戻っていてくれる?」

「アヤメ、どこか行くの?」

「ちょっと、一人でこの街をぶらっと買い物してみようかなって!」

「分かった! じゃあ、また宿で!」

「うん、じゃあね!」

 酒場の前でアヤメと別れた。

「じゃあ、俺たちは戻ろうか!」

「うん!」

 俺たちは宿の方へと向かう。

 辺りは徐々に日が暮れていて、綺麗な夜空が見え始めた。


「ねぇ、エン?」

「どうした、レイナ?」

「折角だし、私たちも少し寄り道して帰らない?」

「そうだな!」

 俺たちが街の中を散策しながら、街外れの丘の上へと向かった。

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