第48話 天文台

「やっぱり、天文台だね! そう標識に書いているよ!」

 辿り着いた丘の上の天文台は大きな木の中に建てられており、木の天辺にはこれまた大きな望遠鏡が剥き出しとなっていた。

 標識の先、木の幹に入口らしき扉がある。

「勝手に入っていいのかな?」

「いいんじゃない? とりあえず、中に入ってみよう!」

 アヤメはそう言うと扉を開け中へと入った。

 扉を開けた先、大きな木の中は、とても天井が高い空間があるのみ。

 木の側面に沿って無数の階段が上に伸びていた。


「こんにちは! ごめんください! 誰かいますかー?」

 しかし、誰もいないのか返答は無い。

「誰もいないのかな?」

「うーん、そうかもしれないね……!」

「はーい、どうぞー、上まで上がって来てください!」

 遅れて、声がした。

 上の方からだった。

 どうやら、この高い階段を上った先に人がいる様だ。


「上まで行こう!」

 声がした方へと俺たちは階段を上がった。

 木の側面に沿って長く続く階段。

 登りきった先には大きな部屋があり、その中には外から見えたあの大きな望遠鏡があった。


「はぁ……はぁ……。やっと着いた!」

「いらっしゃいませ! あら、旅人の方かしら?」

 そして、部屋にはとても背の小さいおばあさんがいた。

「はい! あの、私たち、外からこの望遠鏡が見えたので……」

「どうぞどうぞ、ご自由にお使いいただけますので、部屋の中までお入りください!」

「お邪魔します!」

 俺たちは部屋の中へと入った。


「はぁはぁ……、ちょっと、みんな階段を上がるの早いよ……」

「えっ⁉ あなた……エリナーゼ……?」

 おばあさんは遅れて部屋に入るレイナの顔を見てすぐにそう尋ねた。

「えっ、わ、私……? 違います……私はレイナと言います!」

「あ、そうですよね……。ごめんなさい、昔の知り合いにとても似ていたもので……つい……」

「いえいえ、そんなにその人に似ていたのですね……」

「えー、とても! 目なんかそっくりだわ! でも、その人は五十年前も昔の知り合いですから……あなたとは違いますわね、ごめんなさいね。で、御用はこれでしたね?」

「はい!」

「この望遠鏡は望遠魔鏡と言って、この世界の隅々まで見ることができます!」

「世界の隅々まで⁉ すごい!」

「このメル・ブルーの青く透明な空と大地なる世界樹アースユグドラシルの膨大な魔力マナのおかげでどんな遠くの場所で見ることができるのです。で、あなたたちはどの場所をご覧になりたいのでしょうか?」

「特にここって言う場所は……」

「であれば、どうぞ自由に覗いてください! 私が案内いたしましょう!」

「ありがとうございます!」

「じゃあ、エンから順番に覗いていこうか!」

「ありがとう、じゃあ先に!」

 俺は望遠魔鏡を覗いた。



「わぁー、すごい! 本当に遠くまで見える!」

 どこまでも青く広がる空が見える。

「では、徐々に動かしていきます」

 おばあさんは紐を引っ張り、望遠魔鏡を巧みに操り、回転させ動かしていく。

「おっ……⁉ だんだん、大きな大陸が見えてきた……。砂漠……⁉」

「そうです。今見えていますのが、砂の大陸ドライランドです」

 緑豊かなこの大陸とは違って、草木がほとんどない砂漠の大陸、まさに砂の大陸ドライランドだ。


「じゃあ、交代ね!」

 アヤメもレイナも代わりばんこで望遠魔鏡を覗いていく。

「すごーい! ホントに遠くまで見えるんだね!」

「ねぇ、私にも。ホントだ、すごーい‼」

 二人も望遠魔鏡に大興奮だった。

 

「それでは、今度はこちらの方角を見てみましょうか」

 また、望遠魔鏡を動かしていく。

「今度は綺麗な海と小さな島がいっぱい見える……」

「少し見え辛いですが、海の中を見てください」

「海の中……? えっ⁉ 何かある!」

 僅かに海中にお城だろうか建物の面影が見える……。

「ぼんやりと水の大陸ウォーターランドが見えるかと思います」

「あれが、水の大陸ウォーターランド⁉」

「はい、水の大陸ウォーターランドはほとんどが海の中にある大陸です!」

「すごい! この世界は海の中にも住めるんだ!」

「はい、そうです。それもこれもすべて世界樹ユグドラシルが作り出す魔力マナのおかげです!」

魔力マナって私たちが暮らしていくのに本当に欠かせない存在なんだね!」

「はい、そうです!」 

「おばあさん、ところでここから緑の孤島グリュースって島は見えますか?」

 俺はおばあさんにそう尋ねた。

「ほう、よくそんな小さな島を知っていますね! それなら、この方角に確かで……」

 望遠魔鏡を動かした。

「あっ⁉ 緑の孤島グリュースだ! こんなに小さな島だったんだ! うわー、火山も見える!」

「エン、ねぇ、ねぇ、私にも代わって!」

 俺はレイナに代わった。


「あっ、私がいた渓谷も見えた!私たちの旅はここから始まって、いつの間にか、こんな遠くの場所まで来たんだね!こっちに来なかったらこんな大冒険一生できなかったわ!」

「ホントだな!」

 その後もレイナはしばらく望遠魔境に夢中だった。

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