第41話 試乗

 大きな柵の広場はガモリの試乗できる芝生のコースになっていた。


「よし、じゃあ、お兄ちゃん、そのガモリに跨って、そしたら、手前の手綱を掴んで強く引っ張るんだ」

「はい!」

 俺は目の前のガモリに乗り込む。

「エン、あんまり〜無理しないでね~!」

 ガモリからかなり離れたところでレイナがそう声を掛けてかける。

 レイナ、そんなに離れなくても……。

 まぁいい、レイナの前でかっこいいところを‼

 そう意気込むとガモリに跨った。

「よいしょ! よし、乗れた! で、この綱をこう引っ張ればいいんだな……」

 俺は手綱を引っ張った。

「こうかな……って、わぁっ!?」


 ――ピョン! ピョン!

 ガモリが勢い良く前に飛び跳ね、進みだしたのだった。


「わぁ~、わぁ~、わぁ~!」

 激しく上下に飛び跳ねるガモリ。

 俺は上手くガモリを操れず、しがみつくのに必死だ。

「危なくなっても綱だけは離すなよーって……。あー、あれはダメだ……」

「エンを助けなくていいんですか……?」

「って言っても、今、行くと危ないからな……。まぁ、心配ない、そのうち、勝手に止まるか、振り落とされるかのどっちかだから、お嬢ちゃん、悪いけど、ガモリが止まったらまた呼んでくれ!」

「……って、えっ? あ、行っちゃった……。エン――、大丈夫――?」

「大丈夫じゃない、誰か〜、止めてくれ〜!」

 俺を乗せたガモリはしばらく、コースの中を走り回っていた。


 荷物の上でスヤスヤとお昼寝するニャー。

 そんな、長閑な芝生のコースの中で――。


「わぁ~、わぁ~、わぁ~、わぁ~!」

 相変わらずガモリを上手く乗りこなせずに苦戦する俺。

 そんな俺の意志には背いて、縦横無尽に広場を激しく跳び跳ねていた。


「わぁ~、ダメ~~、ダメだって~~~~~~~~‼」

 激しい揺れに俺はガモリから滑り落ち、手綱を掴んだまま、宙吊り状態となった。

「エン――!?」

「もう、ダメ~~~、落ちる~~~~~!」 

 そして、ついには手綱を放してしまうと、勢い良く芝生に転げ落ちた。

「……痛てて……!」

 芝生から起き上がり、放り出したガモリを探す。

「あれ、ガモリはどこ行った……?」

 すると、離れたところからレイナの声が聞こえる。


「キャ――――――――――――――――‼」

 声をする方を向くと、レイナがガモリに追い回されているではないか。

「なんで、こっちくるの~~~~~? いやぁ~~~~~、誰か助けて――――――――!!」

 広場の中で必死に逃げ回るレイナ。

 しかし、広場を仕切る柵の隅に追い込まれ、どこにも逃げられない状態に。

 そんなレイナに向かってガモリは勢いよく飛び付く。


「いやぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~‼」

 レイナはもうダメだと諦め、目を瞑った。


 ――バチンッ!

 鋭いムチが当たる音がすると、ガモリは急に進む方向を変えた。

 そして、柵の外から誰が入り込むと、そのままガモリに飛び乗った。


「こっちよ!」

 元気よく飛び跳ねるガモリに飛び乗ると手綱をしっかり掴み、言うことを聞かせる。

 すると、ガモリは大人しくなり、きちんと前へ進んでいく。


「レイナー! 大丈夫ー?」

「エン、もう、怖かったんだから〜〜‼」

「ごめん、ごめん、もう大丈夫だから。ところで、あの人は誰……?」

「分からないけど、どうやら助けれくれたみたい……」


 頭まで全身ローブを羽織ってよく分からないが、誰かがガモリを上手く乗りこなしている。

 そして、広場を優雅に一周すると、俺たちの元へとやってきた。


「あなた、大丈夫? 怪我はない?」

「女の子?」

 その声は女の子。

「そうだよ‼ 大丈夫そうだね、良かったー‼」

 ガモリから降りると同時に羽織ったローブのフードが外れ、中から長い亜麻色の髪のポニーテールをなびかせる。

 そうガモリを操っていたのは、同い年ぐらいの女の子だった。

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