第11話 旅の相棒

「お爺さん、では行ってきます!」

「気を付けて行くんじゃ~! モンスターに遭遇しても決しても戦わず逃げるんじゃぞ~!」

「はーい!」

 次の日、陽が昇る頃。

 折れた剣を背負い、俺はお爺さんの家を後にして火山を目指して出発した。

 着ていた制服は脱ぎ、代わりにお爺さんから貰ったこの世界の服装に着替えた。

 この服、植物で出来ているらしいが、頑丈で動きやすく気心地も良い。


「元気での~!」

 手を振るお爺さん。


「お爺さん、ありがとうございました!」

「にゃぁぁ~~!」

 俺の肩にはニャーの姿が。

 ちょうど肩にピッタリ乗っていた。

 意図せず異世界に持ち込んだぬいぐるみだが、これから一緒に旅をする相棒。

 見知らぬ異世界で一人旅をするよりは心強い。


 目的地の火山はこの森を抜け、その先にある丘を越えた先にある。

 この一本道をまっすぐ進めば森を抜けるらしく、迷う心配はない。

 俺はひたすら森の中を歩き続けた。


「しかし、どこまでも同じ様な景色だな……」

「にゃぁ――‼」

 歩き始めて数時間。

 森はまだまだ続く。

 森の中では家どころか誰一人、人の姿を見掛けない。

 この森にはお爺さん以外は、誰も住んでいないのだろうか……。

 幸い、モンスターとも今のところは遭遇していない。


 ――キー、キー、キー

 ただ何か生き物は居るらしく、不気味な鳴き声だけはあちらこちらで聞こえる。


「無事に火山まで行けるといいな……」

「にゃ――!」

 できれば、漆黒の大蜘蛛ダークチュラーみたいな恐ろしいモンスターには遭遇したくないものだ……。

 火山まで無事に辿り着けることを祈ろう。




 しばらく森を進むと、行く先に何かを見つけた。

「にゃ―――?」

「なんだろうな……?」

 俺たちはそれに近づいた。


「うぇ……。死骸だ……」

 それは見たことのない青い体の生き物の死骸。

 見た感じ、ウサギかイタチに近い生き物の死骸が道のど真ん中に転がっていた。

 胴体の肉を食い尽くされて、頭と骨だけが残っていた。

 どうやら他の肉食の生き物の餌食になったようだ。

 まさに弱肉強食の世界なんだな……などと考えていると――。


「ニャァ――⁉」

 ニャーが何かに気付き、鳴き声を上げた。


「どうした、ニャー?」

 振り抜いた先の茂みが揺らぎだし、中から何かがこっちに向かって来ている。


「なんだこいつ……⁉」

 現れたのは額に巨大な一本角が付いたまるで猪のような体系の生き物。

 口元や牙に血の跡が付いていた。

「こいつを食べたのはお前だな……」

 という事は――コイツは肉食!?

 大して強そうのない、中ザコモンスターだと思うが――折れた剣しか武器を所持していない今の俺には戦う術がない。

 ここは、戦わずにお爺さんの言った通りに逃げるしかない。

 しかし、一本角の猪は、すごく殺気立っていた。


「逃げるぞ―――――!」

 俺とニャーは一目散にその場から走り去った。


 ――ブヒィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィッ――――――‼


 しかし、勢いよく土埃を立てた一本角の猪は、猪突猛進の如く俺たちを追いかけて来る。


「ヤバイぞ、アイツ、追いかけて来ている!」

 あの大きな角、突き刺さったら一溜まりもない。


「ひぃ―――――!」

 俺は必死に逃げるが、人の足の速さではすぐに追いつかれてしまいそうだ。


「やばい、殺される⁉」

 一本道の中を猛スピードで突進してくる一本角の猪。

 まさに絶対絶命のピンチ。


「ニャ、ニャッ――‼」

 ニャーの掛け声で、咄嗟に俺は近くの木の裏へと回った。


「はぁはぁ……木の裏に隠れれば大丈夫だろう……って、えっ!?」


 ――ドンッ!

 猪は木に衝突した。


「わぁ―――⁉」

 大きな角は木の幹さえも突き抜け、俺の目の前にまで飛び出してきたのだ。

 この木に持たれよっていたら、角が突き刺さって死んでいたかもしれない。


「危なかった……」

 木に突き刺さった一本角の猪は抜けずにその場でジタバタ暴れ回っている。


「これで、とりあえず、助かったな……」

 と、悠長なことを言っている場合ではなかった。


 ――バキッ、バキッ

 どんどん木に割れ目が広がっていく。


「コイツ、どれだけ凶暴なんだよ……」

 木が倒れそうなほど、割れ目が大きくなる。

 再び、襲いかかってきたら次こそは命が危ない。


「とにかく、ここから早く逃げるぞ!」

 その場から走り出そうとした時だった。


「ニャァ――‼」

 ニャーは肩から離れ、一本角の猪に向け、走り出した。


「ニャー、何してんだ⁉」

「ニャァ――――――――――‼」


 ――ズコーン―――――――!

 突然、大きな衝撃音が鳴り響いた。

 ニャーが猪に向けて、渾身の猫パンチをお見舞いしたのだった。

 その衝撃はすさまじく、猪は遠くまでぶっ飛び、木にぶつかってその場で気絶していた。


「す、凄い……」

「にゃぁ~~~!」

 可愛い声で再び肩の上に乗るニャー。


「ニャー、お前、強いのな!」

「にゃぁ~!」

「ありがとう! 助かった……」

「にゃぁ~~!」

 この猫、ただの生きたぬいぐるみじゃない。

 さっきの猫パンチの威力。

 それに、モンスターが茂みから出てくる前からいち早く存在を察知していた。

 この能力、凄い、本物の猫以上だ。

 コイツ、見た目は可愛いぬいぐるみだが、非常に心強い相棒かもしれない!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る