第10話 教科書

「ほ、ほ、ほ……。ところで、お主の名はなんと言うんじゃ?」

「そうでしたね! 俺はエンです!」

「そうか、エンよ、お主の居た世界の事をもっと知りたいのじゃが、教えてくれんかの~?」

「いいですよ!」

 と言ってもだな……何から話せばいいのか……。

 この世界とはあまりに違い過ぎて……口頭の説明だけで伝わるだろうか……。

 うーん……何かいい方法は……。

 そうだ、そう言えば……!


「あの、俺の鞄ってどこにありますか?」

「それなら、あそこじゃ~」

 お爺さんの指さす先には小さな樹木。

 あれはハンガーラック代わりだろうか……。

 そこに俺の鞄が掛かっていた。

 鞄の中を開け、中を探る。


「……これだ!」

 取り出したのは教科書。


「ほう~、書物かの~?」

「これは俺の世界の本です。学校で使う教科書というのですが……」

 数学、英語、現国、それに地理。

 バッグの中にあった教科書を全てお爺さんに渡した。


「俺がお主の世界の……ほう、ほう、ほう……」

 お爺さんは興味深く教科書のページを読み漁る。


「確かに見たことのない文字じゃ~。それに色までついておるの~。この世界より進んだ文明から来た様じゃな?」

 異世界に転移してから薄々感づいていた事だが、やはりこの世界の文明はかなり遅れている。

 電気がなければ、家も木や藁で建てられている。

 恐らく、中世……いやもっと前の時代だろうか……。


「お主の持ってきた書物は、かなり興味深いの~。お主の世界の研究し甲斐がありそうじゃ~」

「なら、それ全部、差し上げますよ!」

「いいのか、こんな貴重な物をじゃ……⁉」

 こっちの世界じゃ、教科書なんか不要。

 お爺さんに渡して、何か元の世界の事が少しでも分かる方がいいだろう。


「いいです! どうぞ!」

「ありがたいの~! 後でゆっくり拝見させてもらうとしよう~!」

「ところで、お爺さん。俺、この世界に一人で来た訳ではじゃないんです。もう一人、一緒に居たのですが、空から落ちる際に大きな鳥に攫われて……」

「ほう、黒い大きな鍵爪のある鳥だったか?」

「恐らく……」

「なら、おそらくラーグルじゃ」

「ラーグル……⁉ 俺、助けに行かないと……!」

「ダメじゃ!」

「どうしてです? 玲奈は大切な……友達なんです!」

「ラーグルの巣はこの島の反対側にあるのじゃ。今のお主じゃ、そこまで行くのは危険じゃ~」

「そんな……」

「ワシもこの歳じゃ~、島の反対側まで行くのはちと無理があるの~。この島には凶暴なモンスターはいないとはいえの~、武器もなしで、お主一人、途中でモンスターに遭遇して死ぬのが見えておるからの~!」

「でも、玲奈は……。このまま助けずに見殺しになんかできないです!」

「そうじゃの~。ちょっと外まで来てくれんかの~!」

「外?」

 お爺さんに言われ、家の外に出た。

「落ちるんじゃないぞ~?」

「えっ? お爺さん、一体何するの……⁉」


樹木再生エルゴーラル

 お爺さんがそう言うと、足元から樹木がどんどん伸びていく。


「わっ⁉ ちょっと、お爺さん?」

「手を離すんじゃないぞ~」

 俺は樹木から落ちないようにしっかりと掴まる。

「お爺さん、どこまでこれ伸びるのですか?」

 樹木はお爺さんの家を高く超え、森の周りの木々よりも高く伸び上がった。

「お主よ、あれが見えるかの~?」

 お爺さんも後から樹木に乗っかって近くまでやってきた。

「あれって山……?」

 高い木々を超えると、島の中央に大きな山。

「そう火山じゃ~!」

「……火山?」

「お主がその友達を助けたいなら、まずはあの火山へ向かうのじゃ~!」

「でも、あの火山には一体何が……?」

「あそこにもワシの知り合いがおるのじゃ~。そやつならお主が見つけた剣を直してくれるじゃろ~」

「あの剣を直す?」

「あの剣さえあれば、島の反対側に向かっても、お主一人でも大丈夫じゃろ~」

「でも、火山に向かっている間に玲奈に何かあれば……」

「なーに、心配せんでもラーグルはそう凶暴なやつじゃない。巣に連れ帰っても友達を食ったりはしないじゃろ~」

「そんな、保証のない事を……」

「ラーグルの巣の近くにはワシの知り合いが住んで居るでの~。そやつに、ちと手紙を出しておいてやろう~!」

 お爺さんの言う通り、武器もないしに島の反対側へ行くのは危険かもしれない。

 また、いつあんな凶暴なモンスターに遭遇するか分からないし……。

 でも、玲奈の事は心配だ。

 いち早く、探しに行きたいが……。

 まずはお爺さんの言う通り、まずは火山へ向かって剣を直すしか無さそうだ。


「分かりました、お願いします……!」

「あの火山まではなら、朝早くに向かえば、日暮れまでには着くじゃろ~。日の昇っているうちは、あの火山までお主一人で行ってもまぁ~大丈夫じゃろ~。今日はもう一泊ここでしていき、明日の朝に向かうと良いの~!」

「分かりました! ありがとうございます!」

「ほ、ほ、ほ……」

 こうして俺は火山へ向かうことになった。

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