第9話 猫

「お主よ、そんなところで寝ておらんで、早く食べんかの~? スープが冷めてしまうじゃろ?」

「は、はい!」

 俺は再びテーブルに着いた。

 そして、お爺さんの用意してくれた料理をいただく。

 テーブルの上にはお爺さん特製のスープ。

「すごい色……」

 スープにしては見たことのない深緑色。

 一体、中には何が入っているのだろうか……全く想像が付かない……。

 しかし、腹が減ってどうしようもない今の俺は、口より先に手が動いた。


「いただきます!」

 なんだこれ……?

 スープの中を掬い上げると、紫に茶色とこれまた見たことのない色や形の具材。

 木の根だろか……。

 ここは異世界だ、見たことない食べ物があってもおかしくない……。


「よし!」

 決心して、俺はそれを口に入れた。


「ん……………?」

 今までに味わったことの無い食感……。

 それに変な香り……。

 でも……旨い!


「美味しいです、これ!」

 俺は次々とスープを口の中に放り込んだ。


「ほ、ほ、ほ、それは良かったの~。まだまだ、いっぱいあるからいっぱい食べるといいぞ~!」

「ありがとうございます!」

 お爺さんの隣は、相変わらず人と同じ様に、器用に食事をする猫のぬいぐるみ。

 何故、ご飯を食べているのか?

 そもそも、何故、動いているのか?

 気になって仕方がないが……。

 今は腹ごしらえが先だ。


「ごちそうさまでした!」

 俺はスープを平らげるとすぐに――。


「お爺さん、あの……どうして、その猫は動いているのですか?」

「お主はさっきからずっと何を可笑しなことを聞くのじゃ? お前さんのこの友人は生きてないとでも言うのかの~?」

「はい、だってぬいぐるみですよ!」

「ぬいぐるみ……? なんじゃそれは……?」

 そうか、この世界ではぬいぐるみというワードは存在しないのか……。

「そうだな……じゃあ、人形と言ったら分かりますか?」

「ほう、人形とな……? こやつが人形とでもいうのか~?」

「はい、そうなのですよ!」

「ほう~、にしては、良くできとるの~。生き物そっくりじゃ~。毛もふさふさじゃな~」

 と言いながら、お爺さんは猫の頭を撫でる。


「にゃあ~~~!」

 猫も撫でられることを喜んでいるようだった。

「でも、どうして人形がまるで生きているみたいに動いているのですか……?」

「うーん……それはじゃな……。もしかすると、お主の魔力マナが影響しているかもしれないの~」

魔力マナ……?」

 ゲームでよく聞くワードだ!

 なんだか、魔法の世界っぽいぞ!


「ほう、魔力マナも知らないのか……。わかった、特別に話してやるかの~」

 そう言うとお爺さんは魔力マナについて説明をしてくれた。




 この世界には、三つの世界樹ユグドラシルという物が存在するそうだ。

 そして、この世界の全ての魔力マナはそこで作られているのだという。

 この世界の全ての生き物、人も人以外の生き物も皆、魔力マナを体に取り入れることで魔法が使えるのだ。

 漆黒の大蜘蛛ダークチュラーとの戦いでお爺さんが樹木を、俺が炎を使うことが出来たのも魔力マナのおかげという訳だった。

 なるほど、だから俺でも魔法が使えたのか! 

 そして、この猫の人形が動き出したのも、どうやら俺の魔力マナが伝わったからだという。

 この世界には、人形や物を魔力マナで操る人もいるらしく、それと同様の魔法じゃないかとお爺さんは言うが本当にそうだろうか……。

 俺が決して動けと念じた訳ではないのに、まるで本物の様に独りでに動いているこの猫の人形。

 その説明だけでは、受け入れられない所もあるが……。

 ここは剣と魔法の世界。元の世界の常識など全く通じない。

 今はそういうことだと納得するしかないか……。



「にゃー!」

「ふむふむ!」

「にゃー、にゃー、にゃー」

「ほう! そうか!」

「お爺さんその猫の言っていることが分かるんですか?」

 猫と言った瞬間だった。


「ニャッ――――⁉」

 突然、猫パンチを食らった。


「痛てぇー! お前、何をするんだ!」

「ニャー! にゃぁー‼」

「こやつの名前はニャーと言うようじゃ~。猫と呼ぶんじゃないと言ってるの~」

「ニャー? 名前……?」

 そういえば、妹がコイツと遊んでいる時はいつも、ニャーちゃんと呼んでいた様な。


「分かった! ニャー、よろしく!」

「にゃぁ~~~!」

 ニャーは笑顔で、その大きく柔らかい肉球のついた手を差し伸べた。


「おう!」

 俺も手を差し伸べ、お互いにグータッチした。

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