第7話 漆黒の大蜘蛛
「お爺さん!」
必死の思いで俺はお爺さんの元へと戻ると、そこには傷だらけになりながらも
地面から生えた樹木が両鎌に絡み付き、なんとか敵の身動きを封じているが、それも時間の問題。
片方の鎌先が今にもお爺さんの体を今にも貫こうと徐々に迫る。
「お主……⁉ 何で戻ってきたのじゃ……⁉」
「お爺さんを助けに来ました!」
「……お主じゃ無理じゃ! こやつに敵う訳ない……!」
「確かに俺にはコイツを倒す力はないかもしれない……。けれど、お爺さんを助けることぐらいはできるはずです! 俺がアイツの気を引いて、時間を稼ぐので、その間にお爺さんも逃げてください!」
「何を言っているんじゃ……生身のままお主にはアイツの相手は危険じゃ……」
「今の俺にはこの剣があります!」
俺は剣を天へと突き上げる。
「それは……⁉」
「俺が相手だー! バケモノー!」
俺は
そして、剣を振り上げ、自分よりも何倍も大きい怪物に向けて大きく振りかざした。
「たああああああああああああ―――――!」
しかし、剣を振り切るよりも先に、
「ヤバイ――――⁉」
――キ―――――――ン
響き渡る甲高い音。
「ふぅ……危なかった……」
なんとか反射的に剣を盾にして攻撃を防ぎ、一命を取り留めたが――。
「うぁあああああああああ―――――‼」
相手の圧倒的なパワーに押し飛ばれて、地面に転がり落ちる。
「痛てて……。なんてスピードとパワーだ……」
あの長く鋭い前足の鎌を何とかしない限りは、胴体への攻撃は難しいぞ……。
「何しとる⁉ 早く、逃げるんじゃ!」
「……えっ?」
寝転がっていた間に、
そして、目の前に大きく鎌が――。
「……わぁ……⁉」
咄嗟に剣で防ぐが、目と鼻の先にまで鋭く尖った鎌先が迫る。
「……うぅぅぅぅぅぅ……潰される……」
相手の怪力にどんどん押しされ、鎌の先が俺の額を僅かに掠ると、額から血が流れ落ちた。
……俺の力じゃ。
……やっぱり勝てない。
……ダメだ……。
……このままじゃ……。
……死ぬ……。
……誰か助けて……。
〝
突然の目の前に樹木が生え、押し潰す鎌を持ち上げた。
「た、助かった……」
「今のうちに逃げるんじゃ!」
「は、はい!」
俺は立ち上がりその場から抜け出すと、
そして、お爺さんの元へ。
「お主よ、大丈夫か?」
「なんとか……助かりました!」
「そう安心している場合じゃないぞ! この木が千切られたら奴はまた襲ってくるだろう。ワシがこのまま奴の動きを封じる間にじゃ。お主よ、その剣で奴を斬ることはできるかの?」
「俺が、ですか⁉」
お爺さんの言う通り、アイツを倒すにはそうするしか他に方法は無いかもしれない。
ここで倒さないと二人ともここで……。
「分かりました! やります!」
「じゃあ、頼むぞ!」
「はい!」
〝
おじいさんは再び呪文を唱え、更に多くの樹木で
「今じゃ、止めを刺すんじゃ!」
「はい―――!」
俺は剣を構え、走り出した。そして、剣を再び大きく振り上げた。
「これでも食らええええええええええええええ!」
直前で跳び上がると、
「たああああああああああああああああああああ!」
振りかざした剣は
しかし――。
――バキッ
鈍い音が鳴った。
「剣が……⁉ わぁ――⁉」
古びた剣は鉄壁の皮膚の硬さに耐えきれず――見事に真っ二つに折れてしまったのだった。
そして、剣が折れた反動で、空中で態勢を崩す俺。
……えっ……⁉
……嘘……?
……だろ……?
空中で落ちていく中、前足を縛りつけていた樹木が徐々に千切れ、今にも動き出そうとしているのが見えた。
この無防備な状態で、鎌に切られたら確実に俺は死ぬだろう。
目の前な邪悪な
――ここで倒さなきゃ、死ぬ!
死を感じた瞬間、本能的に力が奮い立った。
そして、剣を振りかぶろうと体が無意識に動く。
「たあああああああああああああああ―――――!」
しかし、先が折れたままの剣。
こんな剣では、まともなダメージを与えるどころか、硬い皮膚にまた弾かれるに決まっている。
それでも、俺は剣を振るのを止めなかった。
「俺は、コイツを倒すんだ――――――‼」
剣に込めた思いが、剣身全体に伝わり、銀白の剣身を赤く変化させていく――剣身から熱を発したのだ。
そして、剣に炎が宿ったのであった。
「たああああああああああああああああああああああああ―――――――!」
橙色の炎はどんどん大きく燃え上がり、大きな一つ剣の形となり――。
「切り抜けえええええええええええええええええええ――――――――!」
目の前の怪物に向けて、俺は渾身の一撃を振り抜いた。
「たあああああああああああああああああああああああああ――-―――-――――――――‼」
炎の剣が甲鉄の皮膚を燃やしていく。
――ゴァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア――――――――――――!
「……わっ――!」
目の前の敵を切り裂き、勢い余ってそのまま地面へと転がり落ちた。
二回、三回と横転しながらも、なんとか起き上がった俺。
すぐさま、振り向いた。
「うそ……!?」
そこには鉄壁の
燃え盛る炎の中で藻掻き苦しみ、やがて、息絶えたのか動かない屍となった。
この炎は一体……⁉
これが魔法の力……?
この剣の力……?
目の前の出来事に理解出来ず、呆然と立ち尽くしていたが――。
「あっ……お爺さん⁉」
すぐさま、お爺さんの元へ駆けつけた。
「お爺さん、大丈夫ですか?」
「ああ、助かったぞ~!」
「良かった!」
「見事じゃ~! お主にそんな能力があったとはのう~」
「やっぱり、この炎は……俺の能力なのですか?」
「そうじゃ、お主の魔法がその剣に宿り、奴を切り裂いたのじゃ!」
「俺の魔法⁉ 俺もこの世界で魔法が使えるんだ……‼」
「ほら、この通り、奴も真っ黒になって息絶えた様……⁉」
お爺さんが何かに気付く。俺も慌てて、後ろを振り向いた。
「お主、逃げるんじゃ⁉」
「……えっ?」
――ゴァアアアアアアアアアアアアアアアアアアア――――!
動き出したのは半分に切断された
炎に燃え尽きながらも、最後の力を振り絞り、鎌を突き下ろす。
……ヤバイ⁉
…………殺される!
俺の胴体目掛けて迫り来る鋭く尖った鎌足。
目の前の動きがまるでスローモーションのように見えた。
剣を手にしていなかった俺。
何も防ぐ術がない。
避けようにもすぐには動けない。
もう手遅れだ。
折角、異世界に来たのに……。
こんな場所で俺は死ぬのか……。
弱者では生き残れない。
それがこの世界の掟。
勇者でも神でもない。
俺はただの生身の人間。
夢にまで見ていた憧れの異世界は、とても残酷な世界だった。
――ブサッ
下腹部に何かが突き刺さる感覚。
不思議と痛みは感じなかった。
いや、あまりにも激痛のせいで、もはや痛みを感じなかったのだろう。
勢いよく刺さった物が体から抜けていく。
同時に、体に激痛が走った。
「……ぐはっ……!」
傷口から大量の血が流れると共に吐血。
〝
――ゴァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア――――――――――――!
鳴り響く怪物の轟音。
地面から生えた樹木が突き刺さり、今度こそ完全に息絶えた様だ。
「…………お主よ、大丈夫かの…………⁉」
ぼんやりと声が聞こえるが――。
俺の視界はだんだんとぼやけていく。
どうやら俺はここで力尽いた様だ……。
死んだことなんかないが、不思議と分かる……。
短かったな、俺の異世界生活……。
じゃあな!
視界は完全に真っ暗になった。
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