第6話 巨樹と古剣

「わぁ――わぁ――わぁ――わぁ――!」

 崖をもの凄い勢いで転がり落ちていく。


「わぁ――わぁ――わぁ――わぁ――!」

 勢い止まらず――。


「わぁ――わぁ――って、やばい―――――⁉」

 転がる先には大きな木。

 かなり大きな巨樹だ。


「ぶ、ぶつかる――――――――――‼」


 ――ド―――――ン


 勢いそのまま俺は巨樹に衝突した。



「痛てぇ……‼」

 激突した痛みでその場で蹲まる俺。

 しかし、体はなんとか無事だ。


「で、ここは……?」

 俺は起き上がった。

 そして、周りを見渡す。


 ここは……? 

 いや、木の中。

 ぶつかった衝撃で幹を突き破り、巨樹の中にいたのだ。

 しかし、この巨樹…。


「す、すげ―――‼」

 巨樹の中は大きな空洞となっていた。

 見上げるほど高い天井。

 床には一面を覆い尽くす枯れ葉と木の実、他には何もない。

 幹の裂け目からはかすかに陽の光が差し込み、中を明るく照らす。


 ――キィ――キィ――

 どこからか動物たちの鳴き声がする。

 どうやらここは森に住む小動物たちの住処なのだろう。

 よく見るとリスだろうか、いや、ウサギにも見える――そんな見たことのない容姿の小動物たちが高い所から俺を見つめている。


「ごめんな……驚かせたな……」

 俺は立ち上がった。


「……ん? あれはなんだろう?」

 巨樹の奥にある何かを見つけた。

 よく見ると地面に何かが突き刺さっているではないか。

 俺はそのまま奥へと進んだ。


「これって……もしかして……剣だ……!」

 それは、古びた剣。

 地面の枯れ葉を全て払い退けると木の台座に突き刺さっていた。


「何か書いている……? えっ、日本語⁉」

 台座に彫られた文字。

 驚くことに日本語だった。


 ―次なる者に運命を託す―


 誰かがこの巨樹の中にこの剣を隠したのだろうか。

 次なる者……? 

 運命……? 

 どういう意味だろうか……。

 しかし、この剣があれば――。

 あのモンスターとも戦える。


「よし、この剣を抜こう!」

 剣を引き抜こうと柄を掴んだ。


「ん――――――!」

 何年もこの場所に突き刺さっていたのだろう。

 柄には苔が生え、剣身には沢山の蔦が絡まっている。


「ダメだ、簡単には抜けない……!」

 どれだけ力を入れても剣はビクともしない。


「もう、一回。ん――――――!」

 さっきよりも強い力で引き抜くが、どれだけ引っ張っても一向に抜ける気配がない。

 俺ではダメなのか……。

 この剣にはふさわしくないのか……。

 俺は剣から手を放した。


 そうだった……。

 俺はこの世界の邪悪なモンスターに怖じけ付け、ここまで逃げてきたのだった。

 この剣と魔法の世界に来ても、俺はチートも能力も何もないただの人間。

 モンスターと戦う力など、到底無理な生身の人間だ。

 そう、死ねば終わりのこの世界。

 弱者では生き残れない過酷な世界。

 俺が戦ってもすぐ殺されるだけだ……。


 この世界に来ても、俺は勇者にはなれなかった……。


 でも、このままでいいのだろうか……。

 その問いかけと同時に、漆黒の大蜘蛛ダークチュラーに襲われるお爺さんの姿が脳裏に浮かんだ。


 いや、違う!

 やっぱり、お爺さんを助けなきゃ!

 例え、俺にアイツを倒す力がなくても……。

 お爺さんを助けることぐらいならできるはずだ。


 そのためには、この剣が必要だ!

 

 俺はもう逃げない――。


 もう一度、台座の前に立ち、剣を掴んだ。


「ふぅ…………」

 息を吸い、勢いよく剣を抜く。


「たあああああああああああ――――!」


 お願いだ……! 

 俺に力を貸してくれ……!

 全身全霊で力と想いを込め、俺は剣を抜き続けた。


「たああああああああああああああああああああ―――――――!」

 力の限り剣を抜き続ける。

 そこに、偶然、僅かな穴の隙間から漏れた陽の光が当たった。

 すると、不思議なことに台座に僅かに変化が起こった。


 ――ビシッ

 剣に絡みついた蔦が徐々に剥げていく。

 温かい……⁉

 まるでこの剣に熱を帯びているよう温かさ。


 ――ビシッ ビシッ

 木の台座に少しずつ割れ目が生じていく。


「たああああああああああああああああああああああああああ――――――――――!」


 俺に力を……!

 誰かを守る力を……!


 ――ビシッ ビシッ ビシッ ビシッ


 剣に生えた蔦は全て焼け切れ、台座の切れ目が大きく広がっていく。


 この剣で……!

 助けたいんだ――――!


 直立不動に突き刺さった剣の柄が徐々に揺らぎ始めた。


「たああああああああああああああああああああああああああああああああ―――――――――――――‼」

 そして、剣はついに―――。

 台座から抜けたのであった。


 勢いよく抜き上げた剣。

 剣先は天へと向き、剣身は陽の光に照らされ、白銀色に輝いた。


「抜けたぁ――――――――――――――――‼」

 光輝く銀色の刃と、炎の様に赤く綺麗な柄。


「すげー! 本物の剣だー!」

 俺は軽く振りかざす。

 想像よりかなり重くずっしりとした剣。

 この剣があれば、俺もあのモンスターと戦える!

 お爺さんを助けることができる!


「誰がここにこれを置いていったのか分からないけど……この剣を使わせていただきます!」

 台座にそう一礼した。


「早く戻ろう!」

 俺はお爺さんの元へ急ぎ、巨樹を後にした。

 坂を駆け登り、元来た道を走っていく。


 お爺さんどうか無事でいてくれ――。

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