第5話 地響き
「わぁ―――――――⁉」」
現れた正体に、思わず俺は悲鳴を上げ、その場で腰を抜かしてしまった。
目の前に現れたのは、見たことのないほど巨大な――。
巨大な蜘蛛だった。
黒鉄色の胴体、鎌の様に鋭く尖った二本前脚。
そして、真っ赤に光る無数の目。
そこからは恐怖を覚えるほど邪悪なオーラが漂っていた。
「この大きさに、この鋭い二本の鎌……。お主はまさか、
真っ赤な邪眼はお爺さんの方を向く。
「ここにはお前の望むものはないのじゃ……素直に元居た場所に戻るのじゃ~!」
――ゴァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア――――
まるでお爺さんを言うことに逆らう様に、木々が激しく揺れるほど甲高い轟音を響かせた。
「ひぇ―――――――‼」
……ヤバい
……怖い
……殺される
初めて見るモンスターに俺は完全に怖気ついていた。
夢見てた世界ではこんな恐ろしい姿ではなかった……。
「いいか、お主はここから逃げるんじゃ~!」
「……で、でも……俺……」
初めて目にする恐ろしいモンスターに、完全に力が抜けて、立ち上がれない。
「何をしとるじゃ。早く行くのじゃ~」
「行けと言っても足が……」
「仕方ない! 絶対に近づくんじゃないぞ!」
お爺さんは俺から遠ざかり、敵の注意を反らした。
「お前の相手はワシじゃ!」
〝
地面から伸びた複数の樹木は薙ぎ払った鎌に絡み付き、動きを止める。
「……なにっ!」
しかし、モンスターの圧倒的な怪力により、簡単に引き千切られてしまった。
「……お主、少しはやるようじゃの!」
〝
さっきより多くの樹木が、今度は
流石に後足に絡み付いた樹木は引き千切る事はできず、その場でジタバタと暴れ出す。
「さぁ、今のうちにじゃ~!」
「は、はい……!」
俺は勇気を振り絞って立ち上がり、そして、一目散にその場から逃げ出した。
ヤバい、ヤバい、ヤバい……。
あんなモンスターと戦うなんて俺には無理だ……。
俺は森の中を全速力で駆け抜けていった。
* * *
「はぁ……はぁ……」
お爺さんの家からは十分に遠ざかった。
ここまで逃げればもう大丈夫だろう。
けど、お爺さん一人残して良かったのだろうか……。
だだ、俺なんかが傍に居ては、足手まといになるだけだ。
異世界に来ても、俺はただの人間。
今の俺にはモンスターと戦う力さえないのだ。
――ゴァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア――
森中に鳴り響く轟音。
「ああああああああああああああ――――――!」
そして、お爺さんの叫び声が聞こえた。
「お爺さん!」
ヤバイ、お爺さんがピンチだ。
殺されてしまうかもしれない……。
戻って助けないと……。
でも、こんな俺に一体、何が……。
クソ……!
俺はその場で立ち止まり、強く手を握りしめた。
力があれば……!
何でもいい!
俺にも戦える力があれば……!
――ゴァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア―――
再び、鳴り響く轟音。
俺は音が鳴る方へと振り向いた。
モンスターを倒す力がなくても……。
お爺さんを助けるぐらいなら……。
弱い俺にだって、できるかもしれない!
怖気ついて逃げているだけではダメだ!
勇気を振り絞り、元来た道を引き返した。
「お爺さん、待っていてくれ!」
勢いよく踏み出した一歩。
しかし――。
……って、えっ、えっ⁉
「うわっ―――――――!」
踏み出した足はさっきまでそこに無かったはずの木の根に引っかかってしまったのだった。
そして、横転すると勢い余って、そのまま崖へと転落してしまった。
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