第4話 大森林
「…………はっ⁉」
俺は意識を取り戻した。
「俺は……死んだのか……?」
どうやら、まだ死んではいないようだ。
もしくは天国か。
「ここは……?」
――ピヨピヨピヨ
小鳥のせせらぎが聞こえる。
「……穴……?」
真っ先に見えたのは、天井に出来た大きな穴。
その先には深く生い茂った木々。
そして、高くどこまでも澄んだ空。
「……そうだ……あの空から落ちて……」
落下した時に見えた島のこの森の中へと落ち、どうやらこの建物の中に落ちた様だ。
「良かった……。俺はまだ生きて……」
起き上がろうと体を動かすと、稲妻の如く体中に激痛が――。
「……痛てぇ……でも、なんかとか……」
体は無事に動き、俺は起き上がった。
「……うっ……」
ボキッと骨が鳴る音と外れかけた関節が元に戻る感覚。
手足を無造作に動かしてみる。
「良かった、どこも骨は折れてない!」
どうやら、この麦わらでできたベッドの様な物が下敷きになったおかげで一命を取り留めたようだ。
「さて、ここは一体……どこだ……?」
どうやらここは家の中。
全面、木で建てられた家。
「いつの時代の家だ、ここ?」
この家は電気も無ければ水道も通っていなそうだ。
歴史の教科書に出てきそうな大昔の家。
ただ、人は住んでいる様で、木の棚には食べ物や食器などが並んでおり、釜には火を使った痕跡がある。
しかし、家の中に人の姿はない。
「あのー? 誰かいますか――?」
大きな声で呼び掛けるが、返答は無い。
「仕方ない、外へ出てみるか……!」
俺は家の外へと出た。
「わぁ――‼ すごい――⁉」
家の周りはどこも見渡しても、高く生い茂った木々ばかり。
こんな高い木、見たことない。
大自然に囲まれた森の中にあったのはこの一軒家だけ。
「すごい! すごい! ここは絶対に異世界だ!」
ついに来たんだ、憧れていた異世界に!
きっと、こんな大自然があるんだ!
カッコいいモンスターもいるに違いない!
……モンスター⁉
「そうだ、玲奈が……⁉」
落下中に巨大な鳥に囚われて――。
「玲奈を探さなきゃ!」
と言っても、どっちを向いても木ばかり……。
「一体、どっちへ向かえば……うーん、悩んでても仕方ない、森へ入ろう!」
目の前の深く生い茂った森の中に入ろうとした時だった。
「お主よ~!」
遠くから声が聞こえる。
「人……⁉」
声のする方を向いた。
そこには人の姿が――。
木の杖をつき、白髪の髭と髪を生やした老人だ。
「……お爺さん⁉」
俺はお爺さんの元に駆け寄った。
って、おい待て……。
「なんだあの頭!?」
俺は目を疑った。
派手な髪型だと思っていたら、まるで盆栽の様な植物が頭に乗っているではないか。
あれは髪の毛だよな……?
いやいや、どう見ても盆栽……。
頭の上に乗せている……?
いや、もしかすると生えているのでは……?
平気なのか……?
お爺さんは人だよな……?
色々と考えていると、お爺さんの方から。
「お主か、さっき空から降ってきたのは~? 大丈夫かの~?」
「はい……!」
「お主はなんで空から降って来たんじゃ~? ピジョにでも乗っていたのかの~?」
「ピジョ……?」
「なんじゃ、ピジョが分からんのかの~?」
「あの……俺はどうやらこの世界に飛ばされた様で、気づいたら空から落下していて……」
「ほぉ~、他の世界から飛ばされて空から降ってきたと……?」
「はい……おそらく、ここは日本じゃないですよね?」
「ニホン? 何じゃそりゃ~?」
「ニホン、ニッポン、ジャパン……分かりますか?」
「どれも聞いたことのない言葉じゃの~」
「じゃあ、地球は?」
「……チキューじゃと……⁉ 食い物の名前か~?」
だめだこりゃ……。
言葉は通じるのに、日本も地球も分からないなんて……。
やっぱりここは異世界に違いない。
「ここはどこなんですか?」
「ここはな、
「……ぐりゅーす?」
「この世界にある三つの
……ユグドラシル⁉
……アースランド⁉
正直、お爺さんの言っている事はちんぷんかんぷんだが……。
さっきから、異世界にありそうなワードを連発しているじゃないか!
「お主よ、立ち話もなんじゃから、続きは家の中で話さんかの~?」
「わかりました……」
あ、そう言えば俺、お爺さんの家を……。
「ごめんなさい……落下した時に、俺、お爺さんの家の屋根に穴を開けてしまって……」
「ほ、ほ、ほ、見事に屋根を突き破ってくれたもんじゃ~」
「本当にごめんなさい……。屋根の修理なら手伝うんで……」
「いやいや、これぐらい大したことじゃないの~」
「でも、結構、大きな穴ですよ……」
「大丈夫じゃ~!」
「大丈夫って、一体どうやって直すんですか?」
「まぁーそこで見とるがよいの~」
すると、お爺さんは木の杖を目の前に構えた。
「大いなる地よ 我に従え!」
〝
お爺さんはそう唱えた。
すると、突然、地面から。
「わぁ⁉ 何……⁉」
木の根が生えてきたじゃないか。
そして、木はみるみるうちに大きく伸びていき、屋根まで登ると空いた穴を完全に塞いでしまった。
こ、これは――もしかして、魔法……⁉
「すごい、すごい! 今のは……?」
「なんじゃ、そんなに驚いての~? ただ、わしの能力を使っただけじゃ~」
「能力?」
「お主、魔法の能力も知らんのかの~?」
「やっぱり魔法なんですね!」
「魔法を見たことないのかの~? こりゃ驚いたの~! お主の元居た所には魔法は無いのかの~?」
「ない、ない、ない……!」
「ほう……お主は異世界から来たと言ってたの……もしや……」
お爺さんは険しい顔をして考え込むが……。
「まぁ、よい……さぁ、家の中へ」
そう、家の中へと案内された時だった。
――ドーン ドーン ドーン
突然、森の中から大きな物音が鳴り始めた。
それは、地面が揺れるほど重低音。
「何、何、何……? お爺さん、この音は一体……?」
「この音は、まさかの……?」
――ドーン ドーン ドーン
地響きはどんどん大きくなっていく。
どうやら、何かがこちらに近づいてきているようで、目の前の木々が揺らぎ始めた。
「お主は絶対に動くんじゃないぞ……」
「一体、何が……?」
やがて、目の前の木々を薙ぎ倒すと、地響きの正体が姿を現した。
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