第3話

 三人は並んで街中を歩いていた。ゴシックファッションの少女に和装の男に白い髪の少年。はたから見れば異様な光景だ。しかもその内二名は指名手配犯。

「青天狗さん。一つ気になることがあるんだけどさ」

「なんじゃ?小童こわっぱ

「なんでそんなお爺ちゃんみたいな話し方なの?」

「やはり気になるか。それじゃあ、『代償』の話をしよう」

「代償?」

「何かを得るために何かを失う事じゃ。物を買うためには金が必要。それと同じく能力を得たからには何かを失うのじゃよ」

「へえー」

「そして儂の場合、その代償は『不老不死』なのじゃ」

「…普通、不老不死って望んで手に入れるものじゃないかしら?」

 瞳は思わず話に割り込んだ。少し興味をそそるような話だったからだ。

「そうじゃな。だが不老不死も辛いものじゃよ。時の流れに置いてかれ、あらゆるものが栄え滅ぶ様を傍観しなくてはならんのじゃから。神は儂から『楽に死ぬこと』を奪い去ったのじゃろう」

「…お互い、苦労するわね」

「そう言うお前さんの代償は?」

 青天狗が尋ねると、伽藍は何も言わず自分の金髪を一本だけ抜き、それを傘より前に突き出した。

――途端、朝日を浴びた髪が緑に変色し、先端にが咲いた。

「…曼殊まんじゅ沙華しゃげ

「そう。私の代償は『日光の下を歩けない』。日光を浴びた部分から彼岸花ひがんばなが咲くの」

 そう言うと彼女は左手の黒いロンググローブを外した。

 左手には、もう既に彼岸花が咲いていた。

「まだ代償を知らなかった私は、8歳の頃に左手を失ったわ」

「お前さんがロンググローブや傘を差しておったのも、日光を避けるためじゃったか」

「そういう事。…さ、そろそろ森に着くわよ」

 不意に、三人に声がかかった。

「あの、すいませーん」

 不味い。指名手配犯だとバレたか…?

「あ、申し遅れました。私、JBSというテレビ局の三尾みおしょうと申します。今、街頭アンケートを行っていましてー」

 声をかけてきたのは若い男だった。スーツを着て、手にはペンとバインダーを持っている。

「ほう。どれほど掛かる?」

 青天狗が二人の顔を見られないよう進んで前へ出た。

「たったの1分でございます。お受けして頂けますか?」

「承知した。受けよう」

「ではアンケートを始めさせて頂きます。まずですね、貴方は人を裏切ったことがありますか?」

「ある」

「ありがとうございます。では次。貴方は誰にも話せない隠し事がありますか?」

「ある」

「ありがとうございます。では最後に――その隠し事とは何ですか?」

「…貴様、何者じゃ」

 青天狗が身構え、後ろをかばうように左手を広げる。

「不老不死でも頭はボケちまうのかい?天狗の爺さん」

――何の前触れもなく、唐突に青天狗の首元から血が垂れた。

「…久しいな、鎌鼬かまいたち

「残念だぜ。本名と顔じゃなくて、仇名と能力しか覚えてくれてねえとはな」

「何の用じゃ?」

「用?そんなの自分が一番分かってんだろ。指名手配犯を二人も連れ歩いちゃってさあ。…てめえ、叛逆者だぜ?」

「粛清でもしに来よったか」

「んー…まあ、てめえら殺して金欲しいってのもあるけどよ。一番の目的は、てめえらを殺す事だ。人を殺すという行為をしてえんだ、俺は」

「…趣味で人を殺しているの?」

 青天狗の背後から伽藍が問いかける。

「よく分かってるじゃんか、指名手配犯の嬢ちゃん。てめえだけは殺害報告書に書かずに見逃してやってもいいぜ?」

「お断りするわ。…それより、何の目的もなしに人を殺すなんて、罪悪感はないの?」

「おいおい嘘だろ?指名手配犯がそんなこと聞くかよ?もう30人は軽く殺してるてめえがよ。まあ、答えてやるぜ。そうだな…例えば休日にボーリングをしに行くとする。そん時に人は『ピンが可哀想』ってなると思うか?」

「…思わないわ」

「まあ、そういうこったな。…アンケートは終わりだ」

 青天狗は伽藍と彬の二人を抱えると、力強く地面を蹴り大きく飛び退いた。

「二人はここで待っておれ」

「…青天狗一人で大丈夫なの?」

「無論」

 そう言うと彼は下駄を鳴らしながら三尾のいる方へ歩みを進めた。

「お前さんの事、思い出したわ。なにせ不老不死だと常人の何倍も多い人々と出会うからのう。思い出しづらいのじゃ。――三尾翔。22歳。公戮員こうりくいん。仇名は鎌鼬。能力は『不可視の斬撃を飛ばす』」

「ようやく思い出してくれたかい爺さん」

「無論。それと同時に分かった事もある。…お前さんじゃ儂に勝てんよ」

「なんだよ、折角俺を思い出せたのにまたボケちまったのか」

「ボケてはおらんよ。正常な確信じゃ。ならば宣言しよう。――此度の戦い、儂は一歩も此処から動かん」

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