第2話
「これって」
「そう。指名手配犯の一覧じゃ」
二人の目の前には掲示板がある。そこには指名手配犯の写真と名前、背丈などの情報が書いてあった。
「お前さんの所、ほとんど情報が書いてないのう。写真もまるで盗撮のようなアングルじゃ」
「まあ出生が出生だもの。でもこの写真、嫌なぐらい奇麗に撮れてるわね…顔を見られたらお仕舞い。こんな住宅街の道端で大丈夫かしら」
「大丈夫じゃろう。まだ朝の5時半。この辺りにいるのは目の悪い老人と吠えることしかできない野良犬だけじゃよ」
「それもそうね。所で、誰を殺すか目星は付けているの?」
「無論。
青天狗は一人の男を指差した。
「…この人」
「どうじゃ?殺しやすそうじゃろう。それに難易度の割に報酬も良い」
「本当に殺すの?」
「なんじゃ?自分よりも年下の童を毒牙に掛けるのは気が引けるか?」
青天狗の指差す先には、少年のまだあどけない顔があった。
――
「こんな幼い子に300万って…」
「それほど警察は無能、ということじゃな。儂らのような指名手配犯を狩る『
「…まあいいわ。殺しましょう」
「腹を決めたか」
「ええ。金のためですもの」
「その心意気や良し。人を殺すのに不要なのは良心の
「それで、彼は今どこに?」
「実は、もう居場所は掴んでおる。後は殺すだけじゃ」
「そうなの?それじゃ、案内してくれるかしら」
「無論。ついて来給え」
二人はまだ人の気配がほとんどない街を歩いていた。
「此処じゃ」
青天狗が立ち止まったのはシャッターの閉まった煙草屋の前だった。
「こんな街中に…」
「灯台下暗しとはよく出来た
「…無駄口はいいから、さっさと行きましょ」
「なんじゃ。愛想が悪いのう」
青天狗は一つため息をついたあと、錆びたシャッターを開いた。嫌な金属音が耳を
「ひっ…!」
中から小動物が鳴いたようなか細い悲鳴が聞こえた。
「そら、居たぞ」
暗闇の中に怯えた表情を浮かべる少年が見えた。白い髪。間違いなく天羽だ。
「本当に居るとはね…」
「やけに落ち込んだような声色じゃな」
「ほっといて」
「お…お姉ちゃんたちも僕を殺しに来たの…?」
「そうよ。知っているとは思うけど貴方、指名手配されているの」
「え…?僕、何もやってないよ!」
「…どういうこと?」
「耳を貸すでない伽藍。今まで儂が出会った指名手配犯も皆ああやって言い訳から始まる」
「しっ。静かにして。…ねえ、良かったら事情を教えてくれない?」
伽藍の心には慈悲が芽生えつつあった。それは年下を殺すという罪悪感から来るものでもあった。
「だから、僕は何もやってない!誰にも能力を使ってない!」
「嘘をつくな、
「嘘じゃない!信じてよ!」
「ねえ。貴方の能力を教えてくれるかしら?」
「…僕のは『声を聞く』能力だよ」
「声を…聞く?」
「ずっと頭の中で声が聞こえるんだ。例えば今は…『この子、殺すべきなのかしら』って聞こえる」
「なっ…!?」
「それと『天羽…どこかで聞いたことのある姓じゃな』っていうのも聞こえる」
「…
「ねえ、青天狗。これって声が聞こえるというより…」
「そうじゃな。正確には『心の声が聞こえる』というべきじゃろう。それと、天羽という姓、たった今思い出したわ。
「お父さんを知ってるの?」
「知ってるも何も、とんだ功労者じゃよ。少なくともお国にとってはな。…伽藍。お前さんが決め給え」
「私は…」
彼女は今までずっとお金のために動いてきた。人を殺すことだって
「――殺さない。この子は私が面倒を見るわ」
「…そうか。それがお前さんの答えか」
「…あ、今『儂と同じじゃな』って聞こえた」
「こら、
青天狗は、名前とは裏腹に少し頬を赤らめていた。それを見て思わず伽藍も笑みを
「伽藍…笑ったな?」
「ふふ…ごめんなさい。冷酷そうに振舞ってたけど、実は意外と優しいのね」
「…
そんな悪態をつく青天狗もまた、少しばかり口元が緩んでいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます