放浪の果てに
数年間、折を見ては楓の居所を友人たちに尋ねたりもしたが、行方はわからないままだった。勿論、興信所などに調べさせれば、すぐに分かったことなのかもしれないが、親族でもないのに、そこまでするのは筋が違うのでは…?と思い、そうこうしているうちに月日だけが経っていった。
先日私の結婚式の日取りが決まった。
式の招待状を作っていた際に、楓のことを何としても呼びたいと思い、高校時代ほとんど接点がなかった同級生のルミに連絡を取ってみた。ルミは高校時代に楓と一番親しかったのだが、社会人になってからはほとんど連絡を取っておらず、楓の居場所は知らないとのことだった。
しかし数日後、ルミから連絡が来て、知人に楓と大学の同期の看護師がおり、楓の現在の職場を聞いたと言うのだ。
現在は四国の高知市内で働いているという楓に会うため、私は有給休暇を取って高知へ飛んだ。
クリニックに赴くと楓は忙しそうに働いていた。仕事中に話しかけるのも申し訳ないと思い、業務を終えた楓の前に姿を現すと、楓は心底驚いていたようだったが、嬉しそうに笑顔を浮かべた。
「あれ?どうしてここが分かったの?」
「高三で一緒だったルミから聞いたの。ルミは看護師やってる友人に聞いたって。その子が楓と大学の同期だったらしくて」
「そうなんだー。私の居場所知ってそうなのは、大学の同期で、同じ派遣会社に所属しているアユミくらいだから、アユミと知り合いなのかな?世間って狭いね。あ、もしかして、優香、私のこと探してくれてた?」
楓の呑気そうな話し方は今も変わらなかった。
「当たり前でしょ!突然連絡つかなくなって心配したんだから!」
私がやや強めの口調で話すと、楓は申し訳なさそうに手を合わせた。
「わざわざ遠くまで会いに来てくれてありがとうね。いやさ…そのうち連絡しようと思ってたら結構時間が経っちゃって。明日休み?もし時間あるなら、美味しいお店連れてくし、観光もして行かない?」
「そのつもりだし、ここ数年間のこと、しっかり聞かせてもらうからね」
私が仏頂面で答えると、楓は楽しそうに笑った。
「それはそれは…お手柔らかにお願いしまーす」
楓の行きつけの居酒屋へ行き、まずは高知のものを食べようかと鰹のたたき、酒盗を頼み、地酒で乾杯した。
「…で、ここ数年何をしてきたのか教えてくれる?」
「何って言われても、北は北海道から南は沖縄まで、各地で働いてきただけだよ」
「何でいきなり姿を消したの?」
「いろんな事が面倒になったからかな…」
酒盗を美味しそうに口の中に入れると、楓は笑顔で私を見た。
「元彼の事もそうだし、その妻がした事もそう。自分も含めて、人って案外醜いなーって思ったら、誰とも関わりたくなくなったのかも」
「そんな、ほとんどの人はそんな事しないと思うよ。たまたま、変なのに当たっただけで…」
「そうだね。でも、私は長く付き合っていたのに、相手の本質を見抜けなかったというか、薄々気付いてはいたのかもしれないけど、その場が居心地が良いからという理由だけで、見ないようにしてたような気がして…。最終的にこんなに嫌な思いをするくらいなら、一人の方が気が楽だなと痛感したよー」
「そうなんだ…私が会いに来たのも迷惑だったかな?」
私は結婚式の招待状を取り出せないでいた。
「こんな遠くまで、来てくれて嬉しいよ。優香は本当に面倒見がいいよね」
楓は本心から喜んでいるようだった。
「楓がどっかで死んでたりしたらどうしようかと、凄く心配してたよ」
「私は自殺したりしないよ!生まれてきた以上、細胞の寿命が尽きるまで生きることが生き物としての使命だと思っているので」
使命などという言葉が楓の口から出てくるとは意外だった。ここ数年で彼女も変わったのだろうか…。
「楓はその後、良い人見つかった?」
「見つける気、全く起きないんだよね。誰かと付き合おうとすると、知らない女からキス写真送りつけられた時の衝撃が思い出されて、あまり前向きになれないというか…」
「旦那のメール調べて、相手の女に直接旦那とのキス写真送りつけるとか、普通しないから…。どうせ頭空っぽの、男に媚びを売ることでしか生きられないバカ女だったんでしょ。そういう女に限って料理とセックスだけは上手だったりするんだよね。何だろう昔のドラマに出てくる知性のないアバズレ役って感じ?」
憤慨する私の態度を、楓は何だか面白そうに見ている感じがした。
「慰めてくれてありがとう。でも、知性ないのは人の事言えないから…優香みたいに賢くないし。ところで、優香は婚活はどうなったの?」
「実は結婚が決まりまして…。楓に結婚式に来てほしくて、今日は招待状を持ってきたの。遠いけど、来てもらえないかな?」
私の言葉を聞くと、楓の顔が輝いた。
「おめでとう!こんな遠くまで招待状を直接届けてくれたんだもの。何があっても絶対行くよ。今日は前祝いということで、私の奢りだから、好きなだけ食べて飲んでね!!」
楓の満面の笑みを見て、私は心から安堵した。
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