昆虫男子vsスピリチュアル男子

「あゔゔ…気持ち悪い」

 私は朝からドンヨリしていた。


「優香、大丈夫?昨日かなり飲んだよね。私、一部記憶ないや」

 記憶がないと言いながらも、楓は爽やかな笑顔で朝からカップラーメンをすすっていた。

「お酒飲むとしょっぱい物食べたくなるの。いつもよりお腹空いちゃうし…。絶対美容に良くないよね」


 ザルめ…。こっちはトイレの住人になる一歩手前だと言うのに、お腹が空いただと!?

 楓が酒豪なのを忘れて、一緒のペースで飲んだ私がバカだった。


「そういえば、楓。今年中に良い相手が云々言ってたけど、何か行動はしてるの?」

「うーん、1人飲みかな。誰か良い人いたらナンパしよっかなって」


 何とも可能性が低い方法ですこと…


「それで、誰かに話しかけた?」

「全然、だっていきなり話しかけたら不審者扱いされそうで…」

 楓なら、知らない人にでも平気で話しかけそうだが、その辺の常識はあるのか。


「それなら、私が最近始めたマッチングアプリに、楓も登録しない?」

「何だかよくわからないけど、それって簡単?」


 楓はアナログ人間で、海外暮らしの元カレとはSkypeで、国内の知人とは電話とショートメールのみで連絡を取り合っていたのだが、今回は珍しく乗り気だったので、私がマッチングアプリの登録を手伝った。


「誰かとマッチしても、LINEやってなきゃ、連絡手段に困るでしょ?絶対登録しておいた方が良いから」

 そう言って、LINEも無理矢理登録させた。


 そして、にわかに結成された婚活部隊は、アプリでマッチした男性と次の土曜日必ず会うということをノルマに、翌日曜日の午後、第一回目の報告会を開いた。


「どうだった?」

「1人ヤバい人に会ったよ。優香はどうだった?」

「私も強烈な人だった…」


 そう、私、加古川優香かこがわゆうかは、一生に一度かもしれない衝撃的な出会いと別れを経験したのだった。

 彼はLINEの時こそ愛想が良かったが、実際に会うと全く目線を合わせず、会話も噛み合わなかった。

「こっち…家あるから、犬も待っているので来て」

 そう言うと有無を言わさず、自宅へ…


 まさかの、会って5分で連れ込むんかい!!

 そう驚きつつも、奇人変人に対する好奇心からとりあえず行ってみた。


「それで、家まで行っちゃったの?危なくなかった?」

「必ずドア側に自分が位置して、間合いは十分過ぎるほど取ってたよ」


 楓が心配するのも当然で、今回の私の行動は軽率とも言える…だが、どうにか対処できるだろうという根拠のない自信があった。


「優香は凄いね。間合いなんて、格闘技してるみたいだよね。婚活って命懸けなんだね」


 いやいや、命懸けではないだろう、普通は…。


 楓の返答は相変わらず的外れだが、命懸けではないにせよ、私はいつもより少しだけ冒険したかもしれないと思った。


 そして、ややコミュ障の気があるその男性は、とにかく変わった人だったのだ。

 見た目は長身細身のイケメン!

 犬を溺愛するのは良いのだが、昆虫を飼育するのが趣味で、部屋中至る所に昆虫の入っている容器が!!

 ゴキブリも餌として飼うことがあると聞いた時に、この人とは無理だろうと思った。

「やっぱり、いきなり自宅は落ち着かないから今日は帰るね!」

 そう言うと、飼育箱の中身を見ないようにしつつ、彼の自宅を後にした。


 マニアックなイケメンくんよ…是非、昆虫学者の彼女でも見つけて、幸せになっておくれ…。私は見た目に、そこまで執着はないのさ。



「優香の会った人も相当変だと思うけど、私が会った人もさー、タロットと手相占いが趣味のスピリチュアル男子で…」


 楓もまた、レアキャラに当たったようだ。


「スピリチュアル男子はダメなの?」

「だって、うまくいかなくなったときに、藁人形わらにんぎょうとか持ち出されて五寸釘ごすんくぎで打たれるかもしれなくない?何か怖いし…」


 なるほど…そういう感じの人か。


「それにね、前の彼女と別れた理由が飲み歩いて浪費したからだって…。自分がお酒飲めないからって、飲み歩きを浪費って言われちゃうとなー」


 下戸のスピリチュアル男子が酒豪であれば、まだ楓とお似合いだったかもしれないが…


 昆虫男子vsスピリチュアル男子…

 甲乙つけがたい変わり種に当たったということで、第一回報告会が決着すると思われたのだが、楓は次の一手を打ってきた。


「あ、夜に会った人は、結構好みのタイプだったよ」


 私が昆虫男子だけでお腹いっぱいすぎて、次の一手までは考えられなかった中、楓はスピリチュアル男子と会った後、素敵な実業家と出会っていたのだ。



















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