第36話 何ていう遊び?
日曜の朝6時。念の為、早めに起きて正解だったと思う。
予想通り襲ってきた筋肉痛で体の至る所が痛い。
有難いことに睡眠はしっかり取れた。何故ならフレアが昨日の夜は侵入して来なかったから。
服を着替え用意して貰っていた朝飯を食べて歯磨きと洗顔を済ませ、少し時間に余裕があったからフレアの部屋を覗いてみる。
「何してんだ?」
襖の隙間から覗くとフレアと目が合った。俺は早くに起きていた事よりフレアの格好が気になって部屋に入ってフレアに問いかけた。
「何だ? それ、何ていう遊び?」
布団を跳ね除けていたフレアは両手足前にピンッと伸ばし、尻尾も後ろにピンッと伸びている。そして心做しかプルプル震えて険しい表情をしていた。
「ガ、ガウ……」
震えるフレアは手先だけ動かして人差し指で自分の顔を指さした。
「え? 何? 顔?」
「ガ、ガウ……」
1度人差し指を折りたたんだフレアは再度人差し指で顔を指さす。
「もしかして……額をくっ付けろと?」
「ガ、ガウ……」
人差し指を折りたたんだフレアは握り拳を縦にして親指を立てた。どうやら正解のようだ。
まるでジェスチャーゲームのようなやり取りで何となくフレアが固まっている理由を察する。
多分、フレアも筋肉痛だ。
俺もかなり筋肉痛だが、動けないほどではない。昨日、俺が見ていない間にフレアはここまでなるくらい動き回っていたのだろうか?
どうせ『痛い』とか言うだろうけど、とりあえず聞いてやるか。
横になっているフレアの額に自分の額をくっ付けるのは難しかったけど、何とか出来た。
『手と足と尻尾……攣った。助けて』
「何で!?」
予想より酷かった。
よく考えてみれば筋肉痛でも少しは動ける。でも、今のフレアは手先しか動かせず、その横たわる姿はまるでトントン相撲の倒れた駒みたいだ。
「まぁ攣ったのはしゃーない。とりあえずそのまま俺の話を聞け」
額を離し座り直してフレアの目を見て話す。
「今日はこれからバイトに行ってくる。帰りの時間は聞いていないから分からない。ここまではいいか?」
「ガ、ガウ……」
「昨日の店、タヌキ屋の場所は分かるか?」
「ガ、ガウ……」
フレアは小さく首を縦に振る。
「寂しくなったらそこに来い。多分、俺と会えるから。それじゃ行くわ」
「ガウ……?」
立ち上がって部屋を出て襖に手をかける俺をフレアは潤んだ瞳で見つめてくる。
フレアの言いたい事は分かる。これは『助けてくれないの?』といった感じだろう。
しかし、俺はフレアを放置。時間に余裕を持たせたといってもフレアを助けるほどの時間はない。
だから、このままバイトへ行こうと思ったのだ。
「まぁ……その、なんだ……頑張ってくれ。じゃあな」
「ガウゥウウッ!」
フレアを応援して俺はソッと襖を閉じてバイトへ向かった。
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