第34話 面接

「着いたぞ」


「え? ここって……」


「さっき食べたタヌキ饅頭を作って売っているタヌキ屋じゃ。知らんのか?」


「いや、知ってますけど」


 まさか紹介先がタヌキ屋とは思いもよらなかった。


「とにかく中に入るぞ」


「は、はい」


「ガ、ガウ」


 キツネさんに紹介して貰えるとはいえ、バイト先となる場所へ入るのには緊張する。

 ゴクリと唾を飲んで返事をする俺の横で何故かフレアも緊張しているような感じだった。


「いらっしゃいませー」


「よ! タヌキ!」


「あれ? キツネさん!? ちょっと前に買っていきましたよね? また買いにきてくれたんですか? それとも、クレーム?はわわ!どうしよう……」


「お主は毎度毎度……少しは落ち着かぬか」


「はいぃ……すみません」


「おい、小僧。こっちへ来い」


「はい」


 後ろで2人のやり取りを見ていたら呼ばれたのでキツネさんの隣に立つ。


「この小僧はワシの友人の息子でな。小遣いを減らされてバイトをしたいと言うのでここへ連れてきた。お主1人でタヌキ屋を運営するのは厳しかろう? どうじゃ? この小僧を雇ってやってはくれぬか?」


「はぁ、バイトですか……ってキミは昨日の告白少年!キツネさんに根回ししてバイトとしてウチに近付くとは……やっぱりウチを狙ってたんですね」


 妄想が凄い。

 昨日はフレアを探す為に聞き込みをしにきただけ。今日は今日でたまたまキツネさんが紹介してくれるバイト先がタヌキ屋だっただけ。

 これは単なる偶然なのにここまで妄想を広げられるとか、ある意味才能のようなものだ。


「告白もしていませんし、狙ってもいません」


「ホントですか?」


「ええ、本当です」


「これっぽっちも狙っていませんか?」


「全く狙っていません」


「はぁ……またウチの勘違いかぁ……」


「なんかすんません」


「いえ、大丈夫ですぅ……はぁ……彼氏欲しい……」


 物凄く落ち込むタヌキさん。何だかめちゃくちゃ可哀想になってきたけど、かける言葉が見つからない。

 黙っているとキツネさんが少し声を大きくしてタヌキさんへ言葉を放った。


「おい、タヌキ!」


「は、はい! どうかしましたか? キツネさん」


「どうしましたも何もあるか! 小僧を雇うのか雇わないのか早う決めんか!」


「す、すみません! で、では、面接をさせて貰ってもいいですか?」


「ワシは構わぬ。小僧はどうじゃ?」


「俺も大丈夫ですけど、履歴書とか無いけどいいんですか?」


「はい、問題ないです。ウチの質問に応答してくれるだけで結構ですので」


 質疑応答。バイトが出来るかはこれにかかっている。ハキハキと即答すれば好印象になるやもしれん。頑張ろう。


「えっと、まずはフルネームと年齢を教えて下さい」


「山内秋斗、17歳の高二です」


「アキトきゅん……かっこいい名前……」


「は、はあ……ありがとうございます……」


「彼女や好きな女の子はいますか?」


「いません」


「お菓子は好きですか?」


「めちゃくちゃというほどではないですけど、結構好きです」


「年上の女性は好きですか?」


「好きかどうかは分かりませんが、大人っぽくて素敵だと思います」


「次が最後の質問になります」


「はい」


「ある日、栗色のセミロングの髪をした童顔でめちゃくちゃ可愛くておっぱいの大きな3つ年上の女の子とバイト先が一緒になって、そこから毎日仲良くお話しながら働いていました。その女の子から告白されたらアキトきゅんは付き合いますか?」


「うーん、どうでしょうね。その状況になってみないと分かりませんが、過ごした時間密度とその女の子の性格によっては付き合ってもいいと思うかもしれないです」


「採用!」


 採用されたのはいいけど、どの辺りに採用されるポイントがあったのかさっぱり分からなかった。

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