第33話 駄目じゃ

 お馴染みの平屋で手を洗った後、ちゃぶ台を囲む。

 ちゃぶ台の真ん中には茶菓子としてタヌキ屋のタヌキ饅頭が用意されている。

 自分の好物を振る舞うなんて、奮発したなぁ。また全部フレアに食べられなきゃいいけど。


「ガウガウ!」


「小娘。全部食うでないぞ」


 キツネさんは先に釘をさした。あまり意味は無いと思うけど。

 穏やかなお茶のひと時。しかし、俺は落ち着かずキツネさんの顔色を窺っていた。

 何故ならまたキツネさんに頼み事しなくちゃいけないから。しかもフレアのおかげで今日3回目になる。

 さすがに怒られるのではないかとこうやって顔色を窺い、機嫌がいいタイミングを見計らっているのだ。


「ふむ。やはりタヌキ屋のタヌキ饅頭は美味いのぅ。して、小僧。悩みがあるならさっさと言ったらどうじゃ?」


「え? なんでそれを……」


「こんな美味い菓子を目の前にしてワシの顔ばかり眺めておるからのぅ。余程ワシの事が好きか、ワシに何か言いたくなければそうはならんじゃろ」


 キツネさんにはバレバレだったようだ。こうなったら思い切って言ってみよう。


「キツネさんにまた頼み事がありまして……俺を神社でバイトさせて下さい」


「は?」


 驚いたのかキツネさんはタヌキ饅頭を食べようと口元へ持ってきて口を開けたまま止まった。


「実は……」


 俺は順を追ってキツネさんに説明する。今日が小遣い日で、その小遣いが500円になってしまった事。そしてそれがずっと続くのと、母さんにバイトをしろと言われた事。

 それらを説明してもう1度キツネさんに尋ねてみる。


「……という事でバイトをしたくて……ダメですか?」


「なるほどのぅ。可哀想とは思うが、駄目じゃ。そもそもウチの神社は小さいからワシ1人で事足りておるのぅ」


「そんなぁ……」


 町でバイトを探せば幾らでもあるけど、俺はなるべく田舎ののんびりした所で働きたかった。

 キツネさんの所ならフレアも来れるから、バイトをする場所としてはこれ以上ない。

 そう思っていたけど、その思惑は儚く消えてしまった。

 こうなってしまったら町でバイトを探すしかない。はぁ……町でバイトかぁ……嫌だなぁ。

 気分が沈んで黙っていた俺にキツネさんが声をかけてくる。


「そう落ち込むでない」


「落ち込みもしますよ。キツネさんの所ならフレアも来れるから、バイトとしてもフレアが寂しがらないで済むって思ってましたし。それに俺、町が苦手なんですよ」


「ふむ、そうか。それならワシの所でバイトさせる事は出来ないが、良いバイト先を紹介してやろう」


「良いバイト先?」


 キツネさんは持っていたタヌキ饅頭をヒョイっと口に放り込んでお茶を啜ると立ち上がった。


「丁度、茶菓子も食べ終えた事じゃし、そこへお主を紹介してやろう。ほれ、ついてこい」

「は、はあ……」


「ガウガウ!」


 一体どこへ連れて行かれるのだろう。田舎ならいいが、少々不安だ。

 そんな俺の心境とは裏腹にフレアはウキウキしている。きっとお出掛けだと思っているに違いない。

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