第30話 これだけ?
こういう場合、普通は夏希を追いかけるべきなのだろうが俺は追いかけない。だって、面倒臭いから。
「ガウ……?」
夏希が騒いだおかげでフレアが起きてきた。とりあえずフレアに朝飯を食わせて散歩にでも連れて行こう。
「おはよう、フレア。朝飯食いに行こうか」
「ガウ!」
朝飯という言葉に寝起きの眠たそうにしていた目もパッチリ。ベッドから飛び降りて俺の手を取って引っ張ってくる。
「ガウガウ!」
「おい、引っ張るなって」
フレアに引っ張られキッチンへ行くと母さんがちょうどキッチンに立っていた。
「あら、休みの日なのに早起きね」
「起きたくて起きたわけじゃないんだけどな。朝飯ある?」
「今作ってるところよ。もうちょっとで出来るから座って待ってなさい」
テーブルに着いてすぐに朝飯が並べられ食べ始める。食べている最中に母さんがキッチンから話しかけてきた。
「秋斗。さっきキツネから連絡きて、準備してあるから早く来いって言ってたわよ」
「あ……忘れてた」
休みの日に植林と整地をする約束をすっかり忘れていた。
「アンタまた何かやらかしたの?」
「『また』って人聞き悪いな。今までやらかした事なんかねぇわ……多分」
「そう、それならいいんだけど。ご飯食べたらすぐに行きなさい。キツネは怒ると怖いから」
確かに神様を怒らせたら怖そうだ。思い出させてくれてありがとう、母さん。
朝飯を食べ終わって出掛ける準備を整え、玄関で待っていると着替えさせて貰ったフレアと母さんがやってきた。
「あれ? 母さんも出掛けるのか?」
「出掛けないわよ。昨日、アンタにお小遣い渡すのを忘れてたから、今渡そうと思って」
昨日はフレアの事もあって小遣い日だというのも忘れていた。毎月貰える有難い5000円。今月は何に使おうかなー。
「手を出して」
有難い5000円を受け取るにはやはり両手でなければ。と、両手を差し出す。
「はい、これが今月のお小遣いね」
「ありがとう……って……え? これだけ?」
手に乗せられたのは500円玉1枚。
「フレアちゃんの服代とかアンタのお小遣いから引いていくから。さすがにお小遣い無しは可哀想と思ってね。今月から当分、アンタのお小遣いは500円よ」
「えーっ!? 小遣いが500円って、殆ど何も出来ないじゃん!」
「仕方ないでしょ、女の子の服は高いの。文句があるならバイトしなさい」
「くっ……」
ぐうの音も出ない。ひとまずバイトは後で考えるとして、500円を財布に納めてフレアと神社へ向かった。
神社へ向かう道すがら、またフレアが駄菓子屋の前で駄菓子を強請ってきたが、却下。
フレアの食いしん坊っぷりでは貰ったばかりの貴重な500円が一瞬でなくなってしまう。
キツネさんの所でお菓子が貰えるかも知れないと言って何とかフレアを駄菓子屋から引き剥がした。
神社へ着くと待ってましたと言わんばかりにキツネさんが外で待っていた。
「遅ーい!」
「すんません」
「ん? 何じゃ? 小娘。その手は」
俺がキツネさんに怒られている横でフレアは両手を差し出してお強請りのポーズをとっていた。
お菓子を貰えるかもと言ったのをフレアは確実にお菓子が貰えると受け取ったようだ。
「ガウガウ!」
「あのー……フレアはキツネさんにお菓子を貰えると思っているみたいで……」
「は? 何でワシが菓子をやらねばならんのじゃ」
「実は……」
俺はキツネさんにさっきの駄菓子屋の前での事を話した。
「小僧、お主なぁ……まぁ良い。仕方がないから菓子は用意してやろう」
「ホントにすんません」
「じゃが、菓子は作業の後じゃ。良いな?」
「はい! 良かったな、フレア。作業が終わったらお菓子貰えるってさ」
「ガウ!」
「では、裏山に行こうか」
「はい!」
「ガウガウ!」
俺と喜ぶフレアはキツネさんの後について裏山へ歩みを進めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます