第29話 修羅場というやつか

 第28話


 フレアは額を離すとちょっと恥ずかしそうにして部屋を出ていった。


「なんだよ……可愛いとこもあるじゃん」


 優しい気持ちに包まれ床に就く。

 これなら今日はぐっすりと、そして気持ち良く眠れそうだ。



「痛い、痛い!」


 痛みで目を覚まし布団を捲るとフレアがそこにいた。また俺のベッドに潜り込だフレアの角が胸の辺りを刺していた痛みだったようだ。


「今日こそはのびのびと寝れると思ったのに……」


 部屋を出て行った時のフレアの様子から、今日は潜り込んでこないと思っていたらこの始末。

 俺はベッドの隅で小さく丸まって寝直した。



 起きたのは朝8時。予定では10時くらいまでは寝ているつもりだったのに、フレアのおかげでゆっくり眠れやしない。

 睡眠の妨げをした当の本人はまだ俺のベッドで熟睡中。ホントに呑気なもんだ。こっちとら痛い所だらけだってのに。

 服を着替えた俺が椅子に座ってヨダレを垂らして寝ているフレアをボーッと眺めていると、廊下からドタバタと走ってくる音が聞こえ、部屋のドアが勢いよく開かれてうるせぇ奴が入ってきた。


「おはよーっ! アキト! 入っていい?」


「入っていいもクソも、もう入ってんだろ」


 朝から無駄に元気で騒がしい夏希。この騒がしい夏希がここへ侵入してくるまで気付かなかったのは恐らく外か玄関先で母さんに会って『部屋で寝てるから起こしちゃってもいいわよ』とかなんとか言われたのだろう。


「それで? なんだよ、夏希。こんな朝っぱらから。俺に何か用か?」


「土曜に遊ぶって約束したから来てあげたんだよ! 忘れたの?」


「あっ」


 すっかり忘れていた。

 忘れていたのは俺が悪いけど、約束を無理矢理取り付けたのは夏希の方なのに、何で上から目線なんだ?


「その反応、忘れてたなー! 忘れん坊にはおしおきだー!」


 両拳を上げて襲い掛かってこようとしたが、夏希は俺の手前で動きを止めた。


「え? なんで?」


「ん? 何が? ……あっ……」


 夏希の視線の先にはベッドで眠るフレアがいた。そういえばフレアがウチに住んでいるのを知っているのは母さん以外だとキツネさんだけだった。


「なんでフーたんがアキトの部屋で……それもベッドで寝てるの……?」


「これは……」


 事情を説明しようとしたが、それは夏希の平手によって妨げられた。


「痛っ!」


「アキトのバカ! 浮気者! 変態! ゴミムシ!」


「ちょっ、痛いって!」


 次々に飛んでくる平手は1つ1つがめちゃくちゃ痛い。


「帰る!」


 一言に一発ずつ平手を放った夏希は走って部屋を出ていった。

 これが修羅場というやつか。まさか自分が修羅場というものを経験する事になるとは。

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