第27話 忙しない人

 時刻は午後6時を過ぎていた。雨の日ということもあって暗くなるのがかなり早い。

 傘しか持ってきていない俺は視界が悪くなつもていくのに焦りを感じていた。


「ったく、どこ行ったんだよ……」


 バス停へ行き周囲を探した後、駅の方へ向かう。

 その途中である事に気が付いた。


「この辺りって確か……」


 駅への道を少し逸れて頭によぎった所へ足を運ぶ。


「いらっしゃいませー」


 足を踏み入れたのはタヌキ屋。こじんまりとした和菓子屋だ。


「あのー、すみません。ちょっと聞きたいんですが……」


 フレアの事を聞く為にカウンターに立つ女性店員さんへ尋ねようとしたら、女性店員さんは自身の体を抱くように手を回し頬を赤らめて少し怒った感じで返してきた。


「スリーサイズは教えませんよ!」


 突然何を言ってんだ、この人は。


「いや、聞くつもりないんですけど。そうじゃなくて……」


 否定すると次はその赤らめた頬を更に赤くして手を当ててモジモジしながら上目遣いでこちらをチラチラ見てくる。


「え? 違うって事は……もしかして……。ウチは彼氏いませんよ。お客さん、ちょっとウチの好みだから……お友達からなら始めてもいいですよ。きゃ」


「『きゃ』とか言われても……」


「そうですよね。まずはウチの事を知って貰わないとですよね」


「は?」


「ウチは5代目タヌキ屋店主『森野タヌキ』です! 歳は20歳、身長152センチ、体重は……ヒ・ミ・ツ。趣味は……」


「ちょっ、ちょっとストップ!」


 埒が明かない。さっさと用件を言おう。


「今、人を探してて……それを聞きたいんです」


「なーんだ……ちぇっ……やっとウチにも春が来たと思ったのに……あーあ……」


 今度はあからさまに拗ねるタヌキさん。怒ったり、モジモジしたり、拗ねたり、なんともまぁ忙しない人だ。


「なんか、すんません……」


「別にいいですよ。いつもの事ですし……。

で? 探している人って?」


「赤髪で角と尻尾が生えてる女の子なんですけど、見かけませんでしたか?」


「赤髪に角と尻尾? ……あー、お店に来ましたよ」


「やっぱり……」


 フレアは食べ物に執着がある。そのフレアが周囲に甘い匂いを放つこの店に引き寄せられないはずがない。

 やはりここへ聞きに来て正解だった。


「その子はいつ頃来てどこへ行きましたか?」


「うーんっと……確かお昼頃の雨が降る前に来ましたよ。よく分からない言葉を話してて、お饅頭を欲しそうにしてたので1つあげたら、お店を出て真っ直ぐ歩いて行きました」


 店を出て真っ直ぐといえば、駅や家ではなく山の方。1度お店に入って向っていた方向を忘れてしまったのだろう。


「ありがとうございました! 近い内にまた来ます! じゃ!」


「え? 近い内にまた来る!? それって、ウチに会いに……? きゃ〜」


 また頬を赤らめて何か言っているタヌキさんを他所に俺はフレアの向かったと思われる山の方へ駆け出した。


 山の方はお店も無く、民家もほとんど無い。あるのは間隔が広く取られた街灯くらい。

 見渡す限り畑や田んぼのこの道で人が歩いていれば暗くても気付く。

 歩いていればの話だが。

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