第26話 ついて来る前
振り返ると母さんは不安そうな顔をしていた。
「なんだよ。今からフレアを探しに行こうとしてたのに」
「フレアちゃんを探しに行くのはいいんだけど、ちょっとアンタの耳に入れておきたい事があってね」
「耳に入れておきたい事?」
「ええ。フレアちゃんの事でキツネと動いている時に聞いたんだけど、アンタについて来る前にフレアちゃんは色んな所に迷惑をかけていたみたいなの」
「迷惑? それが何か関係あるのか?」
「少なからず関係はあると思うわ。フレアちゃんは畑やお店の物を勝手に取って食べたりしていたみたいなの」
「迷惑というか盗み食いじゃん」
ウチに来てからのフレアの行動を見る限りかなり食べ物に執着があるようにみえた。
それは盗み食いをしなくちゃいけないくらい腹を空かせていた時期があるからなのかもしれない。そうでなければ、ただ単に無知なだけだったのか。
フレアなら両方ってのもありそうだ。
「迷惑を掛けた所へはキツネと一緒に頭を下げてお金を払ってきたわ」
「へぇ、やるじゃん。さすが母さん」
「そこで耳にしたのが、どうもフレアちゃんはその時に酷い仕打ちを受けたみたいでね。見た目がアレだから動物と間違えられたみたい」
俺はもう1つの姿を見るまでコスプレだと思っていたが、他の人は動物に見えたのか。
「酷い仕打ちって?」
「怒鳴りながら追いかけ回されたり、棒で叩かれたりしたみたいなのよ」
「そんな事が……」
初めてフレアと会った時、フレアの服がボロボロで小汚かったのはそういう事だったのか。
「それを知ったキツネが教えてくれたんだけど。アンタが優しくしてくれたのがフレアちゃんはとても嬉しくてついてきたんだって」
「別に俺は優しくなんてした覚えはないんだけど」
「アンタはそう思っててもフレアちゃんはアンタに優しくされたと思っているのよ。そのアンタの何気ない優しさがフレアちゃんは好きで、アンタとずっと一緒に居たかったんじゃない?」
キツネさんが言っていた好意と期待の意味が分かった気がする。きっとフレアは俺の優しさとやらに好意を抱き、どんな事があってもずっと一緒に居てくれるという期待をしていたのだろう。
「ずっと一緒に……か」
「そう。だから、アンタが学校に行っている時は寂しいけど迷惑を掛けたくなくて、我慢してたんだと思うの。そして今日、アンタに会いに行っていいってなったから嬉しそうに家を出て行った」
「嬉しそうに……」
俺はフレアの気持ちを分かってやろうともしていなかった。
フレアの言葉が分からないから。
1日1回しかちゃんと会話を交わせないから。
何かにつけてくっ付いてくるから。
どこか俺はフレアと接するのを面倒臭いと思っていたのかも知れない。
どれほどフレアは俺の事を思っていたのだろうかと、考えると凄い罪悪感が襲ってくる。
「母さん。メシと着替えの準備しといて。きっとフレアはずぶ濡れで腹を空かせてるから」
「任せなさい。いっぱいご飯作っておくわ」
「ありがとう。じゃ、行ってきます」
俺は傘を手に雨の中へ飛び出した。
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