第21話 腹ペコチンパンジー

 テーブルへしょぼくれた冬樹が両手にトレーを持って参上。

 トレーの上に乗っていたいくつもの品々をテーブルへ並べる冬樹は俺に悪態をつく。


「いいご身分ですなぁ! こっちとら散財して給仕までさせられてるってのに」


「知るかよ。お前がご馳走するって言ったのが悪いんだろ?」


「そりゃそうだけど……秋斗だけズリーよ……うぅ……」


「めそめそすんなよ……」


 テーブルへ持ってきた物を並べ終えても冬樹は座らない。


「どうした? 冬樹」


「オレ、教室に戻る」


「え? メシは?」


「もうなんかいいや。じゃあな……」


「あ、ああ……」


 かける言葉が見当たらない。

 冬樹はトボトボと教室へ戻っていった。


 並んでいた物凄い早さで平らげられていく。昔から夏希はよく食べる子だったが、昔にも増して食べる量も早さも尋常じゃなくなっていた。その食べる姿はまるでフードファイターだ。

 そしてフレアも夏希に負けていない。

 箸を上手く使えないフレアはフォークで食べながら空いている方の手でも手掴みで食べている。道具の使い方を覚えたばかりの腹ペコチンパンジーみたいだ。


「ふぃ〜、ごちそーさま! お腹いっぱーい」


 先に食べ終えたのは夏希。定食1つだけの俺より先に食べ終わるなんて、とんだバケモノだ。


「それだけ食って腹一杯にならなかったらビックリするわ!」


「さーてと……」


 おもむろに夏希が席から立ち上がる。


「お腹いっぱいになったから、おウチに帰る」


「メシ食いにきただけかよ!」


「ばいばい、アキト」


 腹を満たした夏希は家に帰っていった。一体ウチの学校に何をしにきたんだアイツは。

 次々と離脱していっているのにフレアは食うのに夢中で見向きもしない。

 このまま俺が離脱してもフレアは食い終わるまで気付かないだろう。まぁそんな事はしないけど。

 夢中で食べているフレアは小さい子どもみたいだ。とにかく食べ方が汚い。

 口の周りは勿論の事、手掴みな上にそこら中にポロポロと落としている。

 こんな子を1人で放っておけるわけがない。


「ほら、フレア。落としてるぞ。顔もこんなに汚して……」


「ガウ?」


 一瞬こちらを見て手を止めたフレアだったが、すぐにまた食べる事に夢中なる。


「はぁ……俺もさっさと食うか」


 ちょいちょいフレアの世話を焼きつつ自分のメシを食う。

 まるで親子の食事の1場面みたいな昼を終えた俺とフレアはテーブルの上にあった食器を全部返却口へ運んで食堂を後にした。


 午後の授業は1限だけ。その後、帰りのホームルームを終え、帰宅や部活となる。

 俺は部活に入っていないから帰宅なのだが、少し調べ物がしたくてフレアを連れて図書室へ向かった。

 図書室に入る前に俺はフレアへ注意事項を伝える。


「フレア。図書室の中では静かにしなくちゃいけないからな。わかったか?」


「ガウ!」


「ホントにわかってんのかよ……」


 妙に返事がいい時は不安で仕方がない。

 なるべく早く調べたかったから、やむなく不安を抱えたまま図書室へ入室。

 目的の物が置いてあるか探しているとフレアがどこかから本を持ってきて俺に突き出してきた。

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