第19話 学食

 教室に戻った俺は先生に事の次第を伝えて席に着く。その後の授業も当然、夏希とフレアのポジションは変わらず冬樹は可哀想な事にずっと床へ座らされていた。

 宇都木はというと、特に変わった様子もなく、まるで何事もなかったような感じだった。慌てて走り去って行ったように見えたのは俺の気の所為だったのだろうか。

 問題は色々とあったものの授業や休み時間を経て昼休みがやってきた。


「さーて、メシ、メシ! 今日は学食と購買、どっちにしようかなー」


「あたし、学食がいい!」


「ガウガウ!」


 夏希の言葉に反応してフレアは頷いて手を挙げて賛同。


「フレア……お前、学食の事知らないで手を挙げてるだろ」


「ガウ? ガウガウガウーガウ……ガウッ!」


「なんて?」


 身振り手振りを加えて一生懸命喋っていたけど、さっぱり分からん。

 さっき無駄に額の会話を使わなければ良かったのに。


「まぁいいや、何言ってても。ついでだから学食に案内はしてやるけど、お前ら金持ってんのか? 先に言っとくが、俺は小遣い前だから自分の分しかないからな?」


「えーっ!? じゃあ、どうすんの!? お腹が減りすぎて死んじゃうじゃん!」


「大袈裟だな。1食抜いただけで死にはしないだろ」


「ガウガウ! ガウーガウガウッ!」


 俺の言葉に対して何か抗議をしている風なフレア。

 コイツら、2人して俺に集るつもりだったのか。


「ふっふっふ。イカンぞ、秋斗。そんな事じゃあ」


 今の今まで存在を忘れられて床の一部になっていた冬樹が出しゃばってきた。


「なんだよ、冬樹」


「ホントに秋斗は甲斐性なしだな」


「ほっとけ」


「お嬢様方。甲斐性なしの秋斗は捨て置いて、オレと学食へ行きましょう。オレは小遣いを貰ったばかりのリッチマン。お嬢様方に好きな食事をご馳走しますよ」


 何がリッチマンだ、このアホめ。


「ご飯食べさせてくれるの? ボッチマン」


「ボッチじゃなくてリッチです」


「ガウ! ガウーガウガウ! ガウ?」


「すみません。何を言っているのか分かりません」


 何はともあれ、2人にメシを奢ってくれるらしいからアホの冬樹はこのままイキらせておこう。


「じゃ、みんなで学食へ行くか」


「ガウガウ!」


「ご飯、ご飯〜!」


「お嬢様方。座る際はオレの隣に……ちょっ、おいていかないで!」



 食堂へ着くと真っ先に確認するのは混み具合。今日は運が良く空席が多数ある。


「俺はもう食うもん決まってるから、先にメシ持って席を取っておくわ」


 券売機にお金を入れてポチッと目的の品のボタンを押し、食券をカウンターのおばちゃんに渡して出来上がってくるのを待つ。

 俺の今日の昼メシは唐揚げ定食のご飯大盛り『450円』。食べ応えのある大きな唐揚げが5個に千切りキャベツ。味噌汁と漬け物まで付いていて、ご飯の大盛りは無料。それでいてこのお値段という有難いメニュー。

 他の品々も安価でボリュームがあり、少食の人は言えば量を減らして貰えてその分のお金は返金される。

 学食のお金は帰った時に母さんから貰うけど、一旦は自分で払うわけだから安価なのはホントに助かる。

 出来上がった料理が乗せられたトレーを持って1番近い6人掛けのテーブルに腰を下ろし券売機の方へ向くと冬樹達が騒いでいた。


「見よ! この輝く5000円札を!」


「おおーっ!」


「ガウー!」


「5000円インストール! ささっ、どうぞお嬢様方」


「あたしは〜コレとコレとコレと……」


「ガウ! ガウガウ!」


「え? ちょ……そんなに食べるの!? あぁあああっ! オ、オレの今月の小遣いが……」


 アレやコレやと2人にボタンをポチポチと押されて冬樹は券売機の前で四つん這いになってへたり込んだ。


「何やってんだ、アイツら」


 騒いでいる光景を呆れて眺めていると前方の視界の外から声を掛けられた。


「山内君、相席いいかな?」


 声を掛けてきたのは宇都木だった。


「別にいいけど」


「ありがとう」


 宇都木はニコッと笑って俺の正面に座った。

 他にも空いている席はあるのに何故相席なのだろうという疑問が一瞬湧いたが、それはすぐに解決した。

 宇都木はいつも弁当持ちで購買や学食には滅多に顔を出さない。今日は何で学食なのかは知らないが、きっと学食へ来て1人で食べるのが心細かったのだろう。

 そこへ来てたまたま俺が目に付いたから声を掛けてきたに違いない。


「いただきます。……山内君は食べないの?」


「ん? あ……いや、食うよ」


 みんなが揃うまで待っていようと思ったけど、時間がかかりそうだから先に食べ始めるか。宇都木が食ってるのに俺が食わずにいるのも感じ悪いから。

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