第18話 1日1回
今は授業中のはず。俺達は村瀬先生に呼ばれて生徒指導室で話していたから教室に居なくてもおかしくない。
しかし、宇都木は廊下にいる。しかも隠れるように。
普段の宇都木は真面目な感じだ。そんな宇都木が授業を放ったらかすなんて考えられない。もしかしたら……。
「宇都木……」
「あっ……山内君……えっと、これは、そのぉ……」
俺は宇都木の肩に手を乗せて首を横に振る。
「何も言うな。分かってるから」
みんなに分け隔てなく接して明るく振る舞い、成績も運動も高い位置で維持。周りからは真面目で明るく清楚で綺麗な女の子として見られている。
その宇都木が授業をサボるなんて、これは日々のプレッシャーによるストレスの弊害だ。こういう時は茶化したり注意したりしてはいけない。
言い難いだろうから彼女の心中を察して理解してやるのが1番だ。
「えっと……何が?」
「アレだろ……その……ストレスって奴だろ? だから、授業中なのにこんなとこに居るんだろ?」
「違うんだけど……」
「え? 違う?」
「うん」
これは恥ずかしい。穴があったら入りたい。
とりあえず穴が無いから両手で顔を覆ってしゃがんでおこう。
「や、山内君?」
勘違いをした俺を宇都木は心配してくれている。夏希は後ろでゲラゲラと笑っているのに。
「ガウ」
ポンポンと肩を叩かれたから手を退けてみるとフレアが優しい眼差しを向けていた。
きっとフレアも宇都木と同じように心配してくれているのだろう。
「フレア……」
フレアは俺の顔に両手を添えて額をくっ付けてくる。これはフレアが俺に伝えたい事がある時の行動だ。
『間違えて恥ずかしいね』
いちいち言われなくても分かっている。心配どころかフレアは俺にトドメを刺しにきた。
「1日1回しか使えないのにこんな事で使うなよ……」
「ねぇねぇ何してるの? それ」
「これは……」
ゲラゲラと笑っていた夏希はフレアのとった行動に興味津々。
額をくっ付けると1日1回短い会話が出来ると言っても夏希の頭では理解出来ないだろう。さて、どう説明したものか……。
「あたしもやるー! そりゃっ!」
「痛ぁっ!」
説明するもクソもなかった。夏希は見よう見真似で頭突きをしてきた。
「どう? あたしのが強いでしょ。あたしも痛いから1日1回しか使えない必殺技だよ」
1日1回使えないというのを聞いて勝手な解釈をしたらしい。
ホントにコイツは後先を考えないな。
呆れた眼差しで夏希を見ているとその後ろで宇都木がこちらをチラチラ見てモジモジしているのが視界に入る。
「宇都木? どうした?」
「2人共、ズルい……」
「ズルい?」
「え、いや……何でもないっ!」
俺が聞き返すと宇都木は走り去って行った。
「どうしたんだろ……」
それにしても『ズルい』って……もしかして宇都木も頭突きをしたかったのかな?
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