第16話 ズリーよ
「何だ? 誰だ? あの可愛い子達は」
隣の席にいる冬樹の視線を辿ると教室の前方扉を入った辺りでキョロキョロしている夏希とフレアがいた。
「げっ!」
「どうした? 秋斗」
咄嗟に体勢を低くして顔を伏せ、小声で冬樹に返す。
「何でもねぇからこっちを見んな。そして俺の名前を口にするな」
「何言ってんだ? 秋斗」
俺の名前を口にするなと言ったのに再度口にするアホの冬樹。その所為で見つかってしまった。
「あっ! アキト発見!」
「ガウ!」
俺を見つけるや否やすぐに駆け寄ってきた2人は周りを気にせず俺に話しかけてくる。
「隠れても無駄だ! 観念して出てこい!」
「ガウガウ!」
「観念しても何ももう見つかってんだよ。というか、何でお前らがここに居るんだよ。夏希、お前はウチの生徒じゃないだろ?」
「えへ、来ちゃった」
後ろ頭に手を添えて何だか照れくさそうにしている夏希。
コイツは何を照れてんだ?
「来ちゃったじゃねぇよ。フレアまで連れてきて何を考えてんだ」
「寝坊してのんびり歩いていたらフーたんがウロウロしてたから連れてきたの。ねぇアキト、遊ぼ」
話が通じない。俺の問いと論点がズレている上に終いには遊ぼうと言い出しやがった。
「『遊ぼ』って、お前なぁ……」
呆れて言葉に詰まっていると横から冬樹がしゃしゃり出てきた。
「おい、秋斗。この可愛い子達と知り合いなのか?」
「知らん。ややこしくなるからお前は喋るな」
俺がシラを切ったのも虚しく冬樹はグイグイくる。
「ウソつくなよー。オレにも紹介しろよー」
グイグイくるおかげで夏希が冬樹に食い付いた。
「何こいつ? アキトの家来?」
こんな家来要らねぇ。
「家来じゃねぇよ。隣の席の知人だ」
「知人とかつれねぇな。どうも秋斗の大親友の冬樹です! 可愛いお嬢さん方、オレと遊びましょう」
「ふーん。じゃ、フユキ。お前、そこ退け。あたしが座るから」
「へ? おわっ!?」
冬樹は誘いをスルーされた挙句、夏希押し退けられて席を強奪された。
席を奪った夏希はせっせと机を俺の机とくっ付けて満足そうな顔をする。
「よいしょ、よいしょ……これでよし!」
「何にもよくねぇよ。何、いすわろうとしてんだよ。さっさとフレアを連れて帰れよ……ん?」
夏希に気を取られているとフレアがコソコソと脇から俺の席に座ろうとしてくる。
「お、おい、フレア。ムリに座ろうとすんな。痛い、痛い!尻尾が顔に当たってるから!」
「ガウ!」
無理矢理俺の膝の上に座ってご満悦なフレア。
「何だよ……秋斗だけ可愛い子に囲まれてズリーよ」
このカオスな状況を見て冬樹が床に這いつくばって悔しがっているとチャイムが鳴り先生が教室に入ってきた。
「はい、席に着けー……何だ? 何を騒いでいる?」
次の授業の先生は担任の
何とかこの状況を上手く打破してくれるはず。
「山内。状況を説明しろ」
「は、はい……」
村瀬先生はショートカットの黒髪でスレンダーな体にフィットした黒いスーツのような服を纏い一見綺麗なお姉さんだけど、目付きが鋭く口調も強くてまるで殺し屋みたいな感じにもとれる。
「何か勝手にコイツらが来ちゃいまして……俺は『帰れ』と言ったんですが……」
「ふむ、なるほど。大体はわかった。とりあえず、このまま授業を行う。授業が終わったら夏希とその奇妙な格好をしている少女を連れて職員室に来い」
「え? このままなんですか!?」
「同じ事を言わせるな」
「はい、すんません……」
打破ならず。睨みつけられた俺はただただ言う通りにするしかなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます