第15話 唯一の楽しみ

 財布の中がスッキリして気分は沈んで身は軽くなったところで夏希に問う。


「どんだけ食うんだよ、お前ら。ったく、もう帰っていいだろ?」


「うん。今日はこのくらいで勘弁してあげる」


 セリフが悪役以外のなにものでもない。


「へいへい、それはありがとうございますね。じゃあな。行くぞ、フレア」


 夏希に別れを告げ、夢中になって美味しい棒をひたすら食い続けるフレアを引き連れて家へ帰る。

 お菓子をあれだけ食べたのに夜飯もおかわり三昧だったフレア。これが育ち盛りってやつなのだろうか。

 フレアはよく食ってよく寝る。ただ、毎度俺が眠りについてから部屋に侵入してきて俺の上で寝るのは辞めていただきたい。

 明日は週の始めだからフレアと小競り合いをしている余裕はない。

 今回は眠っているフレアとの場所取りバトルをせず、隅っこの方で小さくなってすぐに寝直した。


 フレアに布団を取られて寒さでアラームがなる少し前に目が覚めた俺はフレアを起こさないように学校へ行く準備をして朝食を済ませ、少し早いが家を出た。

 いつも学校には1番のり。

 教室の窓際後方にある自分の席に着いてボケーッと窓の外を見ていると教室に1人入ってくる。


「おはよ。ふふ、今日も早いね」


 入ってきたのは宇都木美春うつぎみはる。長い黒髪でスタイルも良く成績も運動も抜群。それでいて気立ても良くて男女共に人気のある街中に住んでいる女の子。

 彼女の家からの交通の便を考えるとまだまだ登校してくるには早い時間。


「おぅ、おはよう。そりゃあ早くも来るさ。田舎からだと交通の便が悪いからな」


 やりたくて1番のりをしているわけではないが、こうやって彼女と話せるのは有難いと思っている。

 俺の住んでいる県で1番栄えている町の学校に奇しくも入学して2年。学校での唯一の楽しみは彼女に会える事くらいだ。

 他のクラスメイト達とは雰囲気が違い、ゆったりとした柔らかい空気を出す彼女とは話していて心地良い。

 入学した時に話しかけられてから学校での俺の癒しだ。


「そうだったね。山内君はいつも大変だね」


「慣れればそうでもないさ」


 毎朝みんなが登校してくるまでこうして彼女と話している。

 これからもずっとこうしていければと思っていたりもする。

 話していると次第にクラスメイトがやってきて俺たちの会話は終了。クラスメイトの前では2人で話すなんてのはあまりしない。

 何だか密会しているようでちょっとしたドキドキ感がある。

 彼女との会話が終了してまたボケーッと窓の外を見ているとうるせぇ奴がきやがった。


「おいーっす! 今日も田舎が恋しくて窓の外を見てるなー!」


「黙れ都会かぶれが! お前の家も割と田舎だろ」


「そんな事ないぞ。オレの家の近所には最近、コンビニが出来た」


「コンビニが出来たくらいで威張るな」


 コンビニが出来た程度で威張り散らしているアホな奴は国元冬樹くにもとふゆき。この学校に入学してからの付き合いだが、気を使わないですむ友人だ。

 気を使わないのはお互い様だけど、朝の宇都木との会話の空気を台無しにするのは辞めていただきたいところだ。

 いつもの日常が訪れるはずだったが、2限目の休み時間にハプニングが発生した。

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