第14話 1番面倒臭い奴
そのまますんなりと帰れると思ったらそうはいかなかった。
駄菓子屋を通り過ぎようとするとフレアは俺の手を掴んで引き止め、駄菓子屋を指さした。
「なんだ? 駄菓子屋に何かあるのか?」
「ガウ! ガウガウ」
「あっ! 駄菓子買うって約束してたっけ」
1人で饅頭を1箱食ったのにまだ食べ足りず、フレアは駄菓子まで食べたい様子。
約束したけどあまりお菓子の食いすぎは良くない。
怒るかもしれないがここは約束を反故にさせてもらおう。
「ガウガウー!」
「帰りに駄菓子を買ってやるって言ったが、今日はダメだ。違う日にしよう」
「ガオー!」
「『ガオー』って……それ怒ってんの?」
「ガオー! ガオー!」
全然怒ってないように見えるのは俺だけだろうか。迫力もなくただただ駄々を捏ねている風なフレアと小競り合いをしていたら聞き慣れた声が聞こえた。
「あれ? アキト。何してるの? その変ちくりんな子は誰?」
昨日に引き続き俺の知人の中で1番面倒臭い奴『夏希』襲来。
確かにフレアの姿は奇抜だが、中身に関してはフレアの数倍は変な夏希。そんな夏希がフレアの事を変ちくりん呼ばわりするとか、目くそ鼻くそを笑うとはまさにこの事だ。
「お前も人の事言えないくらい変人だろ。こいつは……そのー……あれだ」
「あれって何?」
「母さんの遠い親戚で外国から日本に来て、今ウチにホーム何たらってのをしているフレアだ」
咄嗟に設定を作ったせいでホームステイが出てこなかった。
これでは俺がアホみたいじゃないか。
「ホーム何たら? ……あっ! わかった! ホームスパイシーでしょ! こんな横文字も分からないなんてアキトもまだまだだね」
まだまだなのはお前だよ、夏希。
ホームスパイシーって何!? 何で家に香辛料効かせてんの?
間違いを正したかったがここで間違いを否定すれば夏希はムキになってしまう。
俺はグッと堪えてさっさと夏希からの退散を選ぶ。だが……。
「じゃ、俺達は忙しいからここで。ほら、フレア。行くぞ」
「ガウ?」
「待って! 逃がさないよ!」
通り過ぎようとしたら前に回り込まれて逃げられなかった。
「逃がさないも何も、帰りたいんだけど」
「じゃあ、アキトは帰っていいよ。フーたんだけ置いてって! あたしはフーたんで遊ぶから」
言い草がまるで山賊。
ツッコムところが多過ぎて本当に面倒臭い。こうなりゃ最終手段でウヤムヤにして煙にまこう。
「夏希!」
「何だ!? やんのか!?」
ちょっと大きな声で呼んだだけで何故か殺る気満々でファイティングポーズをとってくる夏希。
言葉が分からないフレアより何を考えているか分からない奴だ。
「いや、駄菓子を奢ってやるから黙って立ち去れって言いたかっただけなんだけど」
「駄菓子かぁ……いいよ! シュッシュッ!」
「奢って貰う相手に威嚇の拳を振るうなよ……」
夏希との交渉に成功した俺の手をグイグイと引っ張るフレアはヨダレを垂らしてキラキラとした目で見つめてくる。
「わかったよ。フレアのも買ってやるよ」
「ガウー!」
いくら安価な駄菓子とはいえ2人への奢りは危険な香りがする。だって、この2人は遠慮ってものを絶対知らないもの。
2人を引き連れて駄菓子屋へ入り、あれよこれよと買わされて財布が空になったところで店を出る。
やっぱり遠慮ってものを知らなかったよ、コイツら。トホホ……。
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