第12話 どんな人脈だよ……

 お茶を注いだ湯呑みを俺とフレアの前に置いて、自分の分を少し啜って一息ついたお姉さんは自慢気に口を開いた。


「秋恵から昨日、電話で話を聞いたからじゃ」


 なんだ……母さんから聞いていたのか。深読みして損した。


「母さんから聞いていたなら問答無用で折檻しようとしないで下さいよ。マジで焦ったんですから」


「ふふ。昔、赤い尻を出して泣いていたのを思い出してのぅ。もう1度見たくなってつい」


 人の不幸を何だと思ってんだ。まぁあの時は俺が悪かったんだけど。


「ケツを出していたのも、ケツを赤くしたのもアンタの仕業ですよね!? なんで俺が変な奴みたいな言い方してんの!?」


「おー、すまんすまん。そうじゃったの。はっはっは」


「こっちとら笑い事じゃないんだけど……」


 あらかた俺を笑いものにして気が済んだのか、お姉さんはまたお茶を啜って一息ついてから真面目な顔で口を開いた。


「さて、ひと笑いした事じゃし本題に移ろうかのぅ」


「笑ってたのはお姉さんだけでしょ」


「お姉さん……ちと、むず痒いのぅ」


「だって、名前知らないんですもん」


「そうじゃったか。ワシは白井しらいキツネじゃ。キツネと呼んで構わんぞ」


「では、キツネさんで」


「ふむ。して、その小娘の事じゃが何を聞きたいのじゃ? 秋恵からは息子が彼女を連れて行くから質問に答えてやってくれとしか聞いておらんのでな」


 母さんめ、説明がざっくりとし過ぎだろ。それにフレアは彼女じゃないって言ったのに聞いちゃいねぇ。

 どうして俺の周りは話を聞かないやつばかりなんだ。

 見た感じ『ザ・和風』といったキツネさんに外国人のフレアの事を質問しても分からない事の方が多いと思う。

 それでも言わないよりはマシだと思ってこれまでの経緯と出来事を話してみた。


「ほぅ、なるほどのぅ」


「どうですか? 何か分かりそうですか?」


「額に口付けをされた時の反応を聞く限り、お主は思春期じゃな」


「聞いたのは俺の事じゃねぇよ!」


「はっはっは、そうじゃったか」


 絶対俺で遊んでるよ、この人。


「はぁ……どうせ、分かんなかったんでしょ?」


「そんな事はないぞ?」


「え? じゃあ……」


「これでもワシは千年ほど生きておるからのぅ。大抵の事はおちゃのこさいさいじゃ」


「千年!? 全然そんな風には見えないけど……あっ! もしかしてまた俺をからかっているんでしょ」


 また笑われるとこだった。普通に考えて人間が千年も生きられるはずがない。


「からかってはおらんぞ? ワシは妖狐だからのぅ。千年くらい生きてて当然じゃわい」


「妖狐って、あの狐のお化けの?」


「お化けとは失礼な小僧じゃ。ワシはすでに神仏化しておるわ」


 母さんの友達は神様だった。どんな人脈だよ……。


「すんません、神様」


「うむ、まぁ良い。それで話を戻すが、まずはこの小娘の住処についてじゃ」


 神様だと知ってキツネさんが何だか物凄く頼りになる人に見えてきた。


「この小娘の住処はハッキリとは分からん」


「分からないんですか!? 神様なのに!?」


「神といっても万能ではない。しかし、大体は把握しておるぞ」


「大体?」


「住処は遠方の暑い国。人種はドラゴンというやつじゃのぅ」


 ドラゴンと聞いて思い浮かんだのは北欧。大昔に北欧にはドラゴンというのが住んでいて神話とかいう昔話の本になっているのを耳にした事がある。


「フレアはやっぱり外国人だったのか。北欧の人だったとは……ん? まてよ?」


 少し引っ掛かった。

 北欧は暑い国というイメージがない。テレビで暖炉にあたりながら揺りかごみたいな椅子に揺られて毛糸で編み物をする老婆の映像を見た事がある。

 あの感じだと北欧は寒い国だ。


「北欧って寒い国ですよね?」


「知らん。そもそも住処は分からんと言ったであろう。面倒じゃから暑い北欧としておけば良いじゃろ! 細かい事を気にするでない」


「すんません。話を続けて下さい」


 フレアの家は暑い北欧に決定。暑いにしろ、寒いにしろ、どちらでも外国には変わりなくどうしようもないからこれでいいや。


「次に言語についてじゃが、普段は何を言っておるのか分からんが額をあてた時に言語が理解出来たと言っておったのぅ?」


「そうです。1回だけでしたけど」


「ふむ」


 俺の返答を聞いたキツネさんは茶菓子を夢中で貪るフレアの額に人差し指を暫く当てて、指を離した後に何か分かったような表情で話し出した。

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