第11話 問答無用
神社へ行く道の途中には夏希の家や駄菓子屋、フレアと出会った橋を通る。
夏希の家を通過する時は忍者みたいに物陰へ隠れたりしながらコソコソと見つからないようにした。
別に悪い事をしているわけではないが、夏希に出くわすと何かとめんどくさいからこうしている。フレアも楽しそうに一緒に隠れていたから結果オーライ。
夏希の家を通り過ぎ、次の難所は駄菓子屋。
食う事ばっかり考えているフレアは案の定、駄菓子屋に食いついた。
「ガウ! ガウガウ!」
駄菓子屋の出入口の引き戸に張り付いてガラス越しにヨダレを垂らしながら何かを言っているフレア。
この時はフレアが何を考えているのかよくわかった。
「ダメだぞ。今、駄菓子を買ってる暇はねぇの」
「ガウー!? ガウ!?」
俺の言葉に納得いっていないようだ。
「ダメなもんはダメ。早く行かないと母さんの友達に会えないだろ?」
「ガウ! ガウガウガウ! ガウガウ」
更に突っぱねると駄菓子屋を指さしたりして何かを必死に語っている。恐らく俺を説得しているのだろう。
「わかったよ。というか、何を言ってるのかは聞き取れないけど。帰りに駄菓子買ってやるよ。だから今は我慢してくれ」
「ガウ!」
食べ物事とあれば素直に言う事を聞くフレア。駄菓子を買って貰えるのが嬉しいのか、神社へ足を進め出した俺の腕に抱きついて尻尾を振っている。
「おい、歩き難いから離れろ」
俺の言葉は最早フレアには届かず。振り返って駄菓子屋から目を離さず歩いていた。
「はぁ……聞いてねぇし」
駄菓子屋が見えなくなってもずっとフレアはくっ付いたまま。時折、振った尻尾が俺のケツへ当たるのが気になりつつ、フレアと出会った橋を通る。
この橋を過ぎれば神社まではあと少し。林に囲まれた参道を歩きいくつもの鳥居を潜って奥の神社へたどり着く。
「行けと言われて来たけど、どこに母さんの友達が居るんだろう……」
キョロキョロしていると突然後ろから声を掛けられた。
「おい、小僧」
「うわっ!」
びっくりして振り返るとそこには白い長髪に巫女服姿の見覚えのある綺麗だけど威圧感を纏ったお姉さんが立っていた。
「その反応……さてはウチの神社に悪さをしに来たのじゃな?」
「違いますよ! ただ俺は急に後ろから声を掛けられたからびっくりしただけで……」
「問答無用! 悪ガキには折檻じゃ!」
俺の返答に聞く耳持たず。お姉さんは俺に襲いかかってきた。
「ちょっ、ちょっと待って下さいよ!」
後ろから肩を掴まれ為す術なく慌てているとお姉さんが手を止めた。
「ぬ? 何じゃ? 貴様は」
「ガウ!」
お姉さんを制止させたのはフレアだった。お姉さんに腰に抱きついて必死に止めてくれている。
「悪ガキを庇うとは。小娘、貴様にも折檻が必要なようじゃな」
注意がフレアへ向いた隙をついて俺は率直に神社へ来た理由を口にする。
「俺たちはこの神社に母さんの友達が居るから会ってこいって言われて来ただけなんです」
「ほほぅ。母親の友達とな? 嘘だったらキツい折檻をしてくれようぞ」
「嘘じゃないですって!」
「ならば、母親の名前を言ってみろ」
「
母さんの名前を出した瞬間、お姉さんは手を離して高らかに笑う。
「はーはっは。なんじゃ秋恵の息子か。それならそうと早く言ってくれれば良いのに」
「いきなり掴みかかってきたくせに、早く言うも何もないでしょ……」
「すまんすまん。挙動が怪しかったから悪ガキかと思ってのぅ。ま、立ち話もなんだからウチの中で話をしようか」
「はあ……」
「ほれ、小娘。離さんか」
「ガウ?」
必死に抱きついていたフレアはお姉さんから離れていつの間にか事態が治まっていたからキョトンとしている。
フレアを連れてお姉さんの後をついていき、敷地の隅にある小さな平屋へ入った。
「お邪魔します」
「ガウ」
「茶を用意するから適当に座って待っておれ」
部屋の中心にちゃぶ台が置かれた居間らしき部屋に通された俺とフレアはお姉さんが戻ってくるのを待つ。
暫くしておぼんにお茶のセットと茶菓子を乗せて持って戻ってきたお姉さんは俺の向かいに腰を下ろして湯呑みにお茶を注ぐ。
「茶を飲みながらゆっくりとその小娘の事を話そうか」
「え? なんでそれを……」
まだ母さんに言われて会いに来たとしか言っていないのにお姉さんは話す内容を知っていた。
神社に住んでいるから神的なパワーを持っているのだろうか。
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