第10話 早寝早起き

 遅くても22時には寝て6時に起きる。友人からは「ジジイか!」とか言われるけど電車やバスの本数が少ないから平日は早寝早起きをしなければならないのだが、次の日が休日ともなれば早寝早起きをする必要がない。

 しかし、習慣ってのは怖いもので夜更かししようとしても22時には眠気が襲ってくる。気持ちは緩んでいるから6時に起きる事はないが、今回はそれよりも早く3時に起きた。というか起こされた。


「ぐぐ……また、か……」


 掛け布団を捲ると昼寝の時と同じ状態でフレアが俺の上で寝息を立てていた。

 念を押して言ったのに俺の不安は奇しくも的中。

 またフレアを横へズラしてベッドから立ち上がりヨダレ塗れのパジャマから部屋着に着替えた。


「よーし……」


 そのまま起きているには時間的に早過ぎる。再度ベッドへ入った俺はフレアを壁際へ押してベッドの真ん中を奪取。


「ふふ。どうだ、部屋主の力を思い知ったか。侵入者め」


「ガウ……」


 勝ち誇っていると動き出したフレアの角が俺の顎にヒット。


「痛ぁっ!」


 息苦しくて布団から顔を出そうとしているのか上へ上へと突き上げてくる。


「痛い痛いっ!」


 俺の顎に角が引っ掛かっていて中々顔が布団の外へ出せないフレアは何度も突いてくる。

 このままだと俺の首が千切れるか顎に穴が空く。くい込んでいるから逃れられない俺はフレアの顔が出るように布団を捲った。


「痛たたたっ! なんで!?」


 布団を捲って顔を出させてやっても何も変わらなかった。

 どうやらこれはフレアの寝相らしい。なんて傍迷惑な寝相なんだ。

 何とか逃れて寝ようとすれば今度は寝返りで尻尾が当たる。

 それらを繰り返してやっと安全圏を確保したと思った矢先、母さんがノックをして部屋へ入ってきた。


「秋斗、起きてる? ……あら? 休みの日なのに早起きね」


 時計を見ると時刻は7時。4時間もフレアと格闘していたのか……。


「起こされたんだよ。これからまた寝ようと思ってたとこだけど、何か用か?」


「フレアちゃんの事でちょっとね」


「フレアの?」


「今から母さんの友達の所へフレアちゃんと行ってきて欲しいの」


「母さんの友達って昨日言ってた変わった人か? なんでまた……」


「その友達は物知りだからフレアちゃんの言葉や家の事とか分かるかもしれないのよ」


 確かにそうだとすれば行く価値はある。だけど……。


「それって俺が連れて行く必要なくね? 母さんの友達なら母さんがフレアを連れて行けよ」


「母さんは忙しいの。それにあんたもよく知っている場所だから」


「は? どこだよ」


 俺のよく知っている場所で人がいるとすれば駄菓子屋だけど、あそこに母さんと歳が近い人はいなかったはずだ。


「いなり神社よ」


「げっ!」


 いなり神社はウチからそう遠くないところにある林に囲まれた神社。

 子どもの探検心をくすぐる場所に立つその神社には小さい頃よく遊びに行っていた。

 参拝客は2日に1人見るか見ないか。神主なども見た試しがなかったから好きなように遊んでいた。


 そんなある日。遊んでいる途中で腹が減って出来心でお供え物の野ざらしになっている饅頭を食べた。

 その行動が運の尽き。

 今まで見たことがなかった神主さんに見つかって真っ赤になるほど生ケツを叩かれ、泣きながら家に帰っている途中で食った饅頭にあたって腹痛に襲われた。

 それだけでは終わらず、我慢出来ず漏らしてしまい、家に着いたら母さんにめちゃくちゃ怒られてその神社がトラウマになってそれ以来行かなくなったのを思い出す。


「フレアちゃんも居るんだからまた漏らして帰って来るんじゃないわよ? お昼なら友達は居ると思うから。それじゃ頼んだわよ」


 俺の返事も聞く気もなく、用事だけ押し付けて出て行った。


「昼って、10時には出ないと間に合わないじゃないか……あぁ俺の休日が……」


 フレアを起こして落ちた気分で準備を整え、フレアを連れて家を出た。

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