第9話 フォークを持ってスタンバイ

「ぐぬぬぬ……痛い痛い!」


 体にのしかかるような重みと胸辺りに感じる痛みで目が覚めた。

 咄嗟に体を起こそうとしたけど、体の上に乗っている何かに阻まれた。


「うっ……」


 何が乗っているのかと頭だけ動かして見たらフレアが気持ち良さそうに俺の上で眠っていた。


「フレアか……いつの間に。それにしても……」


 うつ伏せで眠るフレアの角は胸にくい込み、服がヨダレでベトベトになっている。

 痛みと重みに加えてヨダレとかくせが悪い。

 ヨダレのベトベトさが気持ち悪くなってきたからフレアの両肩を掴んで横へズラしてベッドから立ち上がり服を着替えていると暫くしてからフレアが起き上がって目を擦る。


「起きたか? ったく、お前のヨダレの所為で服がベトベトになっちまったよ。まだお前の部屋が与えられてないから仕方ないけど、部屋が決まったら俺のところで寝るんじゃないぞ? わかったか?」


「ガウ。ガウガウガウガウーガウ」


 何か語っているみたいだがさっぱり分からん。言語の壁って凄く分厚いものなんだとしみじみ思う。

 そうこうしていると1階から夜飯が出来たから下りてこいと言う母さんの声が聞こえてきた。


「おっ、もうこんな時間か」


 時計を見ると18時過ぎだった。ちょこっと昼寝をするつもりが割とガッツリ寝ていたようだ。

 飯と聞くや否や、フレアはパッチリと目を開き風の如く部屋から出ていった。


「食いしん坊かよ」


 フレアの行動に呆れながら俺も1階へ向かう。ダイニングへ入るとすでにフレアは席に着いて手にフォークを持ってスタンバイしていた。

 フレアの隣に座って夜飯が並べられるのを待ちながら母さんに部屋の話をしてみる。


「なぁ、母さん」


「何?」


「フレアに部屋を用意してくれよ。さっきも昼寝してたら俺の上に寝てきて角は刺さるわ、ヨダレでベトベトになるわで酷い目に遭ったんだ」


「へぇ、ヨダレ垂らして寝てるなんて可愛いじゃない」


「そんな他人事みたいに……」


「まぁ確かにフレアちゃんの部屋は必要ね。いくら世話を任せたと言っても、思春期小僧と一緒の部屋じゃ何をされるかわかったもんじゃないしね」


「息子に対して言い方酷くね?」


「細かい事気にしないの。ま、そんなとこより……」


「そんなとこって……」


「フレアちゃんの部屋は1階の和室でいいわよね?」


「俺の部屋じゃなければどこでもいいよ」


「じゃ、決まりね。布団は用意しておくから、ご飯とお風呂を済ませたら案内してあげなさい」


「ああ」


 口周りやテーブルを汚しているのも気にせず一心不乱にモリモリと食べるフレアを横目に夜飯を食べ終え、フレアを母さんに任せたのをいい事に長風呂をキメる。

 ホクホク感に包まれながら戻ってくると母さんはキッチンで洗い物をしていて、フレアはリビングでテレビをみて尻尾を振っていた。


「何みてんだ?」


「ガウガウ!」


 俺が聞いてやると何だか楽しそうに言葉を発してテレビを指さしている。

 何がそんなに面白いのかとテレビに目を向けるとグルメ番組が放送されていて美味しそうな料理が映っていた。


「さっき夜飯食ったのに……お前の頭の中は食う事ばっかりかよ」


「ガウ?」


 とりあえずテレビを消して俺は首を傾げているフレアの手を引く。


「そろそろ寝るぞ? ほら、フレアの部屋に案内してやるから」


「ガウ」


 和室へ入ると布団とパジャマが用意されていた。


「ここが今日からフレアの部屋だ。寝る時はその服を脱いでそこに置いてあるパジャマに着替えて寝ろよ?」


「ガウ」


「いいか? 忘れてると思うからもう1度言っておくけど、ここがフレアの部屋だから俺の部屋へ寝に来るんじゃないぞ?」


「ガウ!」


 首を縦に振って良い返事。あまりにも良い返事過ぎて本当にわかっているのか不安になる。


「じゃ、俺も寝るから。おやすみ」


「ガウガウ」


 自室へ戻った俺は湯冷めしない内にとこについた。

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