第8話 パンツ丸出し
リビングへの出入口を気にして見ているとフレアが走って入ってきて、俺の前に来て立ち止まりクルリとその場で回って綺麗になった姿を見せてきた。
行動や表情を見る限りかなり喜んでいるようだ。
「へぇー、衣装ひとつで結構変わるもんだな。まぁいいんじゃないか?」
「ガウガウ!」
何を言っているのか分からないけど、兎に角嬉しいのだけは伝わってくる。
長い髪は肩の位置くらいで2つに髪留めで分けられていて、襟口の広いトレーナーのようなものをインナーにミニスカートのジャンパースカート。清潔感に可愛さを取り入れた小さいリボン付きの靴下。そしてチラッと目に入ってしまったクマさんパンツ。
一体どれだけの値段がしたのだろうか。
喜んでくれたのはいいけど、それよりも次の小遣いへの不安が押し寄せてくる。
「さぁ、お昼をササッと作るわね」
フレアの後からやってきてキッチンに立った母さんは何か考え事をしているような顔をして調理に取り掛かっていた。
はしゃぎ回るフレアや小遣いの不安よりも母さんの顔が気になって聞いてみる。
「風呂場で何かあったのか?」
「よく分かったわね」
「なんとなくな」
「フレアちゃんの服の事でちょっとね……」
「服?」
どこかおかしいところがあったのだろうか。今見ても後ろがパンツ丸出しなところ以外は至って普通に見える。
「尻尾が邪魔でパンツが丸出しになっちゃうのよ」
「そんなことかよ」
母さんの悩みは俺が気付いた事と同じだった。
「そんな事って、あんたねぇ」
「だって、そんなもん尻尾を取ればいいだけだろ」
確かにパンツ丸出しはどうかと思うが、それはコスプレをやめればいいだけの話だ。
「取れりゃあ悩まないわよ」
「は? 尻尾はコスプレの衣装だろ?」
「尻尾は腰とお尻の間くらいから生えてるわ。あんた知らなかったの?」
「知るかよ。そんなとこマジマジ見てたら変態だろ」
コスプレと思っていた物はどうやら本物だったらしい。という事は角も、か……。
角と尻尾が生えている人ってどこの国なんだろう?
「それもそうね。はぁ……スカートはいいとしてズボンは履けないからフレアちゃん用に直さないといけないなんて手間だわ……」
母さんの悩みはそのままだとズボンが履けないから直す手間が掛かるだけの事だった。
「パンツ丸出しはいいのかよ……」
母さんに呆れつつ待っているとすぐに昼飯が食卓へと運ばれてきた。
待ってましたと言わんばかりに席へ着く俺と真似して隣の席に座るフレア。
先に昼飯を食べたにも関わらずフレアの分も用意されていた。それはそれでおかしいと思ったけど、その用意された昼飯がおかしい。
「昼飯って、これが?」
「そうよ」
「だって、これって……」
用意されたのはトーストとそれに塗る物が数種。別にトーストが嫌ってわけではないが、これだけだと朝食という感じだ。
「仕方ないでしょ。お昼に出す予定だったものをフレアちゃんが食べちゃったんだから」
「それにしてもトーストって……」
「嫌なら我慢しなさい。あんたの分はフレアちゃんにあげるから」
「食うよ。でも、これだけじゃお腹減るから、夜飯はガッツリとした物にしてくれよな」
「はいはい、そうするわ」
トーストだけだからあっという間に食べ終わってちょっと一息ついて自室へ行く。
夜飯までは後4時間はある。それまでに腹が減る可能性が高いから昼寝でもしよう。
ベッドへ倒れ込むように寝転がり、布団も掛けずに目を閉じた。
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