第7話 後よ、後!

 姉の部屋は鬼の根城というに相応しく薄暗くて物が少ない。

 本当に鬼が住む洞窟のような部屋は日焼け防止でいつも暗幕カーテンが閉められいるけど、母さんが定期的に掃除してその時に換気をするからカビ臭さやほこりっぽさは全然感じない。

 久々にこの部屋に入ったけど何だか今も毎日姉が使っているような感じがした。


「昔は机の引き出しの中とかに何が入っているのか気になってよく忍び込んだよなぁ。ま、今でも興味はあるけど」


 おもむろに机へ向かい引き出しに手をかけて開けてみる。


「ふむ。なるほど。こ、これは……」


 引き出しは3段。上の段には筆記用具やノート等のごく普通な物が入っていた。

 真ん中の段に入っていたのは姉がよく俺にイタズラをしていた時の小道具。

 そして他の引き出しより深い下の段にはびっしりと可愛い女の子のエッチな漫画が詰まっていた。

 俺は暫く固まった後、


「さーて、フレアを探さなくちゃ」


 何も見ていなかった事にして探索へ戻った。

 結局、姉の部屋にもフレアは居らず、そうこうしている内に母さんが予想より早く帰ってきた。

 フレアの為に買い物をしに行った母さんにフレアがどこかへ行ってしまった事を知らせに俺は早歩きで玄関へ向かい事の経緯を説明する。


「……というわけで、探しても見つからなかったから、外に出て行ったかもしれない。折角、母さんが買い物に行ってくれたのに……ごめん」


「別にいいわよ。痛手っていえば無駄足くらいだから」


「え? 買い物でお金も使っただろ?」


「フレアちゃんの物は全部あんたのお小遣いで買ったから大丈夫」


「何で!? 俺的には全然大丈夫じゃないんですけど!」


「細かい事をグチグチ言わないの。そんなのだから、いつまで経っても彼女の1人も出来ないのよ」


「くっ! 言いたい放題かよ……」


 1つ言えば2つ返ってくる母さんに俺は黙るしかなかった。


「ちょっと秋斗。こっち来なさい」


 俺が廊下で苦虫を噛み潰していると荷物を置いてキッチンへ向かった母さんが呼び付けてきた。

 俺がキッチンへ入ってすぐに母さんは言葉を放つ。


「フレアちゃん居るじゃない」


 母さんが指をさす方へ目を向けるとキッチンの床で眠るフレアの姿があった。


「こんな所に居たのか」


 盲点だった。リビングから見える範囲だとこの場所は死角。立って居ること前提として考えていた俺は見渡しただけで探した気になっていた。

 フレア探しは思わぬ展開で終了。見つかった事でホッとした俺を空腹感が襲うが、それよりも気になることが目の前に広がっていた。


「それにしても……」


 昼飯が入っていたであろう鍋を食い散らかして、その前の床でスヤスヤと寝息を立てて気持ち良さそうに体を丸めて眠っている。


「やりたい放題だな……」


「よっぽど疲れていてお腹も空いていたのね」


 母さんと話しているとフレアは目を覚まし、体を起こしてまだ眠そうに目を擦っている。


「ガウゥ……?」


「あら、起きたのね。フレアちゃん」


「ガウ」


「まだ眠そうだけど、わたしと一緒にお風呂に入りましょ?」


「ガウガウ!」


 母さんからの風呂への誘いにフレアは首を縦に振って了承し喜んでいる。

 光景としては微笑ましいやり取りだけど、俺の心中は不安に侵食されていた。

 そしてその不安を口にしてみる。


「あのー……母さん? 俺の昼飯は?」


「あんたのご飯は後よ、後! こんな可愛い子をいつまでも小汚い格好で居させるわけにはいかないでしょ? さ、行きましょ、フレアちゃん」


「ガウ!」


 不安は的中。フレアの手を引いて母さんがキッチンから出て行き、俺は昼飯をおあずけにされてポツンとキッチンに1人取り残された。


「そんなぁ……あー、腹減った……」


 風呂から上がってくるのを待つしかなくなった俺はリビングのソファーに深く座ってボーッと天井を見て気を紛らわせて待つ。

 待つこと1時間ほど。空腹感で気持ち悪くなりかけてきた頃に母さん達の声が近付いてきた。

 やっと飯にありつけそうだ。

 飯が出来るまでする事ないからフレアがどこまで綺麗になったかみてやるか。

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