第5話 災害みたいなもの
十中八九この声は幼馴染みの
家の中にそれなりの大きさで声が聞こえてくるという事はインターホンも虚しく既に夏希は玄関内に入ってきている。
今の状況を夏希に知られるのは良くない。
夏希は同い年なのにいつも俺を子ども扱いして何かと俺の事情に首を突っ込んでくる。
そのくせ俺の話は殆ど聞かず好き放題やってやり切った感を出して満足気に帰って行く。
見た目はショートカット、夏希が言うにはボブヘアーというらしい髪型は茶髪で、平均身長より少し低く小柄でちょうど良い肉付きに大きな胸の可愛い顔をした女の子なのだが、中身や言動はガキ大将と台風を合わせたような奴だ。
そんな奴が今、このリビングに来ようとしているかも知れない。というか夏希の普段の行動から確実に来る。
俺はこれ以上の侵入を防ぐ為の行動に出た。
「ちょっと離れるけど、フレアはここから動くなよ!」
「ガウ?」
「絶対、ついてきちゃ駄目だからな!」
首を傾げていたから不安ではあるけど、しっかりと言い聞かせている暇はない。
慌てているのをなるべく悟られないようにリビングから玄関へ出向いた。
「よ、よぅ、夏希」
「あっ! アキト。返事がないから寝てるのかと思って、起こしに行こうとしてたんだよ? 起きてるならさっさと出てきてよ」
少し呆れた様子の夏希は靴を脱ごうとしているところだった。
間一髪のところで進行を防いだと思いきや、夏希は靴を脱いで上がろうとしている。
「おい、何で上がろうとしてんだよ」
「え? 『何で』って、アキトの部屋で遊ぶからに決まってるじゃん」
「は? 俺、遊ぶって言ってないだろ?」
「あたしがアキトと遊ぶって決めたから遊ぶの」
毎回の事だが意味がわからん。
昔からくっつき虫の如く俺に付き纏っては有無を言わさず遊びに付き合わせ、別の高校へ進学する事になってやっと離れられると思ったら1ヶ月に2・3回はこうして俺の家に突然訪問してきて遊びの押し売りをする。
ゆっくりとした休日を過ごしたい俺にとってはある意味、災害みいなものだ。
「ねぇ、どいてよ。通れないじゃん」
「通れねぇようにしてんだよ」
夏希を玄関より先に通すまいと、行く手をことごとく阻む。
「何で?」
「何でもクソもねぇわ。今日は忙しいから遊べねぇの。だから、大人しく帰れ」
「忙しいなんて
「1度くらいあるわ! 俺を何だと思ってんだ」
「いつでもあたしと遊んでくれる暇人じゃないの?」
何と失礼な奴なんだ。確かに取りようによっては休日を常に暇してる人間にみえるかも知れないが、それを本人に直接ストレートに言うなんてどんな神経をしているんだ。
「はぁ……もう暇人でも何でもいいから、今日はマジで遊べないから、帰ってくれ」
「えぇー!?」
「今、母さんも居ないし色々やる事あるからお前にまで手が回らねぇんだよ」
「え?」
今まで頑なに上がろうとしていた夏希は何故か急にピタリと動きを止めて自身を抱くみたいに大きな胸の下辺りで腕を絡めた。
「どうかしたか?」
「だって、お母たんが居ないって……」
「それがどうしたってんだ?」
「お母たんが居ないからあたしを部屋に連れ込んでエッチな事を沢山するんでしょ?」
「しねぇわ! 帰れって言ったよな? 俺の話、聞いてた!?」
「ぜーんぜん!」
「そんなハッキリ言われても……。とにかく、今日は本当に遊べないから別の日にしてくれ」
「むぅー……わかった。じゃあ、来週また来るね」
「ああ。悪いな」
「じゃ、また」
「おぅ」
夏希が靴を履き直して帰ろうとしている動きで俺は隙を見せてしまった。
「粉々パーンチ!」
「ぐえっ!」
振り返った夏希は俺の腹に拳を放ってそそくさと楽しそうに立ち去って行った。
「く、くそぅ……油断した」
怒ろうにも後の祭り状態。
不要なダメージは負ったものの嵐が去って行ったから一先ず良しとして腹を押さえながらリビングへ戻る。
「すまん、フレア。ちょっと長引いちまっ……た?」
動くなと言ったのにフレアの姿リビングに在らず。次から次へと起こるアクシデントにため息しか出てこない。
「はぁ……。とにかく探すか……」
放っておくわけにもいかないから、フレアを探すべく足を動かした。
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