第2話 この見た目……
俺に気付いたのか少女はこちらを向いて泣きそうな顔をして震えている。
腰まである白毛混じりの長く綺麗な赤髪に金色の瞳。頭には闘牛のような曲線を描いた黒い角があり、薄汚れた簡素なワンピースの尻辺りからは細長い赤色のワニみたいなシッポが伸びている彼女は背丈が低く見た感じ中学生みたいな幼さ残した顔付きをしていて裸足だった。
「この見た目……まさか、外国の子どもか!?」
こんなところに汚れた姿で隠れるように座っているなんて、家出でもしたのだろうか? それとも迷子だろうか?
兎にも角にも、日本語が通じるか分からないが、話しかけてみよう。この様子ではきっと困っているに違いない。
「キ、キミ、ニニニニホンゴ、ワカルゥ?」
何で挙動不審になりながらカタコトになってんだよ。これじゃあ、怪しさ満点だろうが。
ほら、心做しかさっきより脅えているじゃないか。もっと自然に優しく怖がらせないように……そう野良猫を手懐ける時みたいに。
ソッと屈んで彼女と目を合わし、優しく話しかけ直す。
「君、俺の言葉わかる?」
すると、彼女は小さく頷いた。言葉が通じて内心ホッとする。正直言って英語の成績がすこぶる悪い俺は日本語が通じなかったらどうしようかとちょっとビビっていた。
「こんな所でそんな格好してどうしたんだ?迷子か? それとも家出か?」
「ガウガウ」
やべぇ、さっぱり分からん。
俺の質問に返した彼女の言葉は日本語どころか英語ですらなかった。英語でもほとんど分からないのに他の国の言葉とか余計に分からない。
「うーん……困ったな。全然、言ってる事がわからん」
困って悩んでいると、
「ガウゥ……」
弱った声を出した少女の腹がなる。表情や様子から察するに彼女は腹が減っているようだ。
少し食べて減ってしまったけど、とりあえず残っている駄菓子をあげよう。食いながらでも話は出来るから。
「腹減ってるのか? 駄菓子で良かったら食うか?」
「ガウ!?」
袋から駄菓子を取って差し出すと、彼女はシッポをピンッと立てて横に振って目を輝かせた。
感情に合わせてシッポが動くとは……最近のコスプレってのはよく出来てるもんだ。
目を輝かせて駄菓子と俺を交互に見る彼女は相当腹が減っているのか、ヨダレを垂らし始めた。
「食べていいんだぞ? ほら」
彼女の手を取り、美味しい棒という麩菓子を手に持たせてやると、
「ガウ!」
袋も開けずに齧り付いた。
「ガウゥ……」
残念そうな顔をして美味しい棒を口から離して見つめる彼女はまた腹を鳴らしている。
最近の子どもは駄菓子の食い方も知らないのか? これが現代社会の闇ってやつか……。と言っても、俺もまだ高二だけど。
噛み付いた部分は砕けてしまっているだろうけど、別に食えないわけじゃない。
彼女のヨダレで滑る袋をなんとか開けてあげる。
「こうやって開けて食べるんだ。ちょっとボロボロになってるけど、ちゃんと食えるから食ってみ?」
さっきのが余程悲しかったのか、彼女はゆっくりと美味しい棒を口へ持っていき、確かめるように少しだけ齧った。
「ガウッ!?」
美味しい棒を気に入ったのか、それともめちゃくちゃ腹が減っていたのか、彼女はあっという間に食べてしまった。
次々と袋を開けて美味しい棒を渡していき、食べている彼女に質問をする。
「そんなに腹が減ってるのに、家に帰らないなんて……やっぱり、君は迷子か?」
「ガウ」
食いながら首を横に振って答えてくれた。『はい』か『いいえ』で答えられる質問なら首振りで応答が成立しそうだ。
「そうか。じゃあ、家出か?」
「ガウ」
家出という質問にも首を横に振る。家出でも迷子でもなければ、一体なんだろう。サバイバルの練習かな?
「まぁ迷子でも家出でもないなら邪魔しちゃ悪いし、俺は帰るよ。丁度、駄菓子も無くなったからな。じゃ、川の近くは危ないから気を付けろよ」
彼女に別れと注意を告げて俺は小さな橋の下を後にする。
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