第17話 ノア様の駆け落ち作戦



「――え、どう言うことですか?」

「混乱するのも無理はない。だが、これはエレットロニカ国・ウィリアム殿下からの提案なんだ」

 外は暗くなり、夕食を食べ終えてゆっくりしているとノア様が訪ねてきた。彼は部屋に入るなり、人払いをするとすぐに本題を話しだした。

「でもそんなことして、大丈夫なんですか? 国外逃亡、みたいなこと……」

「いいんだよ。聖女の君を手放すのは辛いが、エレットロニカに行くことがこの国のためだと思うんだ」

「私は、ギルバート様とパンが作れるならなんでもいいです」

「そう言うと思ってたよ。大丈夫、あちらの国に行ったら君、パン屋さんするから」

 ……ん? なんか、パン屋さんって聞こえたけど。

「もう一度言ってもらっていいですか?」

「だからね、あっちの国でメルちゃんがパンを作って国民に売るんだよ。お米でパン作れるって言っていたじゃないか」

 確かに作れるけど……スケールが。

「資金とか必要じゃないですか……ただでは出来ませんよね」

「大丈夫だよ、ウィリアム王子が全て出すって。国の発展のためならなんでもする人だから大歓迎だってさ」

「でも、それだとギルバート様は……」

 パンは作れるけど、彼とは離れ離れになってしまう。それは嫌だ。

「それも大丈夫。ギルは、メルちゃんの護衛騎士として行くことに決まったよ。だから一緒だ」

「……本当、ですか」

「うん。本当だよ。ギルも公爵も納得している。でも、あっちの国に行く日まではギルにはなかなか会えないんだけど」

 一緒にいられるんだ……よかった。

「ウィリアム殿下は無理に結婚しろだなんて言わないよ。ギルも歓迎するって言ってるからおもてなしは盛大にするってさ」

「そうなんですね……盛大さは要らないんですが」

「でも、そう言うことになったから。よろしくねメルちゃん」

 そうして、ノア様と隣国のウィリアム殿下によって私とギルバード様のエレットロニカ王国へと行く計画が進められていった――……


「初めまして、メル様。私……ロバート侯爵が娘、サラと申します」

 ノア様に計画を教えられてから数日後のこと。私の元に綺麗でお人形さんみたいな方がやってきた。

「初めまして……メル・フタバ・セダールントです」

「ふふっ知ってるわよ。聖女様で、騎士団長のお姫様でしょう」

「お姫様……!?」

「あれ違ったかしら……私はそう聞いたんだけど。私はね、幼い頃からノア様の婚約者候補筆頭令嬢なの」

 筆頭ってことはサラ様の後ろには何人か控えてると言うことよね……。すごい。

「すごいですね……」

「凄くはないわよ。家が爵位を持っているだけ。私はただの令嬢よ」

「でもすごいです!」

「ありがとう。私、あなたのパン食べたことあるのよ。ノア様からいただいて」

 え……! 私のパンを? しかもノア様からって、なんか嬉しいけど恥ずかしい。

「凄く美味しくて感動しちゃったのよ、あんなパン見たことも食べたこともないから。ふわふわで」

「喜んでもらえて嬉しい限りです」

「ふふ……でも、もうエレットロニカに行かないとあなたのパンは食べられないのね」

「知ってるんですか?」

「殿下から聞いたのよ。それでね、協力してほしいって言われちゃったの。メル様がいなくなった後は、私が婚約者になるって決まったわ。」

 それって婚約内定ってこと? じゃあ、それって……

「メル様と団長は駆け落ちではなくて、この国の発展のために行くことに決まったのよ」

「そ、そうなんですか?」

「ええ。だからね、団長様と結婚できるわよ」

 えっ……結婚もできるの?

「可愛らしいわね、アイリーン王女の言う通りだわ」

「可愛くはないですよ」

「自分の魅力に気づいてないのね? あなた、王宮の男たちにモテモテよ? それに団長は、睨んでるんだから」

 ギルバード様が、睨む……?

「団長様がぞっこんになるのも無理ないわね。私はこれで失礼するわ。じゃあ、ね」

 サラ様は要件だけ言うと、帰って行ってしまった。

 だけど、これからもギルバート様と一緒にいられるのは嬉しくて久しぶりに胸が高鳴った。

 それからまた翌日、私はギルバード様と一緒に公爵領に帰省した。帰ってきたのはあの、私が攫われてしまった日以来だ。


「おかえりなさいませ、メル様!」

「ライラ……! ただいま帰りました」

 私は出迎えてくれたライラにハグをすると、オスマンさんにエミリーさんにもハグをした。

「よく帰ってきたね、お帰りなさい。ギルバードも」

「私はついでですか?」

「そんなことないわ! 今日はみんなで夕食にしましょ」

 私はライラによって部屋に連れて行かれて、湯浴みをされた。オイルマッサージまでしてもらった。夕食までは、厨房の人に挨拶をしたりアルに挨拶してフレンチトーストをご馳走になった。

「……っうん。美味しいわ! すごい、お父さんのと瓜二つよ」

「本当? よかった……メルがいなくなっても練習はしていたんだ。いつか合格もらえるように」

「すごい。ここまでよく上達したわね」

 アルとは、いろいろな話をして「パン作れるようになったんですよ、夜は楽しみにしててください」と言っていたので夕食はすごく楽しみだった。

 そして、夕食を迎えると美味しい料理になんだか感動した。最初ここにきた日のご飯を思い出して涙出そうになる。

「メルちゃん? 美味しくないかい?」

「いえ、すごく美味しいです。とても……なんだか最初にここにきた日を思い出して、なんか、うまく言えないんですけど」

「あの時は右も左も知らないお嬢さんだったのにね……今じゃ、この世界にも馴染んで、立派にパンを作って認められてるなんてすごいよ。さすが私たちの娘だ」

 オスマンさんは、思い出話をたくさんしてくれて夕食の時間は過ぎていった。

 翌朝、私とギル様は公爵領から王宮へと向かい――その数日後に、私たちがエレットロニカへ行く日がいよいよ近づいた。

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聖女としてきたはずが要らないと言われてしまったため、異世界でふわふわパンを焼こうと思います! 伊桜らな @koto_yuki

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