第15話 王妃様のお気に入り

王妃様のお気に入り。


「――甘いパン、ですか?」

「あぁ、王妃殿下が食べたいと言っていまして……」

 ある日のお昼休み、私が過ごしている離宮に上品な雰囲気が漂う侍女様がやってきた。

「一度、ノア様が持って来たメル様が作ったパンを食べられて大層気に入ったそうです。それに王妃殿下は甘いものが大好きなんです」

「そうなんですね」

「はい!」

 これは断れないやつだよね……? だって、王妃様からのお願いだよ。拒否権ないでしょ。

「あの、ノア様はご存知なんですか?」

「はい。もちろんです。……そしたら、メル様に直接相談するようにと」

 ノア様……絶対面白がってるよね。

 私が断れないのを知っていてそんなこと言ったよね!? 

「そうですか……少しだけ考えさせてください。明日のこの時間に来てくださいますか」

「もちろんでございます! では、明日伺いますっ」

 侍女様は、元気よく微笑むと離宮から出ていった――それとは反対に私の心の中は曇っている。


「あー! もう、どうしたら」

 甘いパンって何を作ればいいの……しかも王妃様のって。

 うーん……甘いパン。

 私は侍女さんにメモ用紙とペンを持って来てもらって自分の知っている甘いと思われるパンの名前を書き出す。

「コロネにあんぱん、クリームパンに……メロンパン」

 あとなんかあるかな……専門学校の教科書あればもっと種類あると思うんだけどなー……

「何やってるんだ? メル」

「あっ、ぎっギル! もう昼休み?」

「そうだが、何をしてるんだ?」

「あっ、そうそう。実はね――」

 私は王妃殿下の侍女様が来たところから説明した。

「なるほど、そういうことか。ノアに相談したいとこだが、今忙しくてね……」

「そう言えばそう言ってましたね」

 ノア様こと、ノア王子殿下は王太子候補として騎士団団長の仕事をこなしながら国王陛下の仕事を手伝っているらしく。すごくすごーく忙しい。

「そうだ、俺は非常に嫌なんだが……その甘いパンを作ってノアに持って行くのはどうだろう? あいつも甘いものが大好きだから喜ぶんじゃないかな」

「そうなんですか? その考えはとてもいいと思います! そっか、ですよね。あっ、じゃあノア様に持って行く前にギル様食べてくださいますか?」

「いいのか?」

「えぇ、もちろんです!」

 私、ギル様のためなら頑張って作っちゃう気がする。不敬だけど、ノア様と王妃殿下はついでって考えればいいよね。

 そうと決まれば私は、クリームパンに挟むカスタード作りから始めることにして材料集めから始めることにした。



「……こんなに大変だったっけ、」

 カスタードに必要な牛乳、砂糖、卵黄、小麦粉、洋酒、バターを集めて今は煮込みバッドに流し入れてから水で冷やす――んだけど、作るのが久しぶりすぎて一度失敗してしまった。

「餡子も炊かなきゃアンパンも作りたいし、」

 カスタードを冷やしている間に小豆を鍋に入れひたひたに水を入れてふたをすると火をかけた。

 そうして一日目はカスタードと餡子を、二日目はあんぱんとクリームパン、三日目はメロンパンを作ってギル様に食べてもらい彼の選んだのはまさかのメロンパンだった。


「なんか不思議な味するな、ふわふわなのにクッキーみたいなサクサク感もある上に乗っている砂糖も美味い」

「本当ですか?」

「あぁ、何個でも食べられそうだ」

 それから六個は作っていたメロンパンを全て食べてしまってノア様に差し入れする予定のメロンパンが無くなってしまってもう一度作ることになったけど彼がとても喜んでくれたのでとても嬉しかった。

 そしてついに王妃様へお届けする日、副団長として第一王子のノア様の護衛としてギルバード様とノア様と共に私は王妃様がお住まいの後宮へと向かう。

「メル様、そんなに緊張しないでもいいですよ。わたくしもいますので」

「はい……でも、粗相でもしたらどうしようかと思って、」

「大丈夫ですよ、私も同席しますから。それにギル……あ、副団長もいるし」

 確かにそうだけど、そうだけどね……緊張するなって言う方が無理だよ。だって王妃様だよ。しかも会うなんて、最初は言ってなかったじゃん。

「そのドレスも素敵だし、大丈夫。ね? 副団長」

「……っ……」

「可愛くて直視できないって、本当にもう〜可愛いな、ギルは」

 何を言ってんのノア様……。ノア様が色々話してくれているうちに離宮に到着した。

「王妃様、メル殿をお連れしました」

「お入りなさい」

「失礼致します」

 心臓をバックバックさせながら入るとそこには、とても美しい上品な女性が座っていた。めちゃくちゃ綺麗……。

「其方が聖女メルか」

「はい、メル・フタバ・セダールントでございます」

「妾は、メアリー・エリザベス・エミベザともうす。王女・アイリーンの誕生パーティーでは世話になった」

「王妃殿下のお力になれてよかったです」

 もう私はパンを渡して帰りたい。この空間つらい。本当に辛い。

「王妃様、メル殿はパンを作ってくださったんですよ? 王妃様が食べたいとおっしゃったから」

「そうであったな、楽しみにしていたんだ。いただいてもよろしいか?」

「はい、もちろんです」

 私はバスケットに入れたメロンパンを侍女様に渡すと侍女様がお皿に入れ差し出した。

「これは?」

「はい。メロンパンというものです。私のいた世界での大人気のパンでして、ノア様もお気に入りです」

「そうなのか、いただこう」

 王妃様はメロンパンを一口食べると「ん〜美味いな」と一言呟いた。

「不思議な食感だ。フワッとした食感なのにカリッとした焼き菓子のような食感だ……うむ、美味い」

「ありがとうございます、光栄です」

「ノアが気にいるのもわかる。とても美味いな」

 王妃様にもお気に召された様子で、持ってきたパンをペロリと平らげてしまった。

 私たちと王妃様の離宮から出ると、安心したのか力が抜けてしまい倒れたらしい。それはまた別の話だが、後日王妃様のお礼の手紙が届きまたパンを作ってほしいとお願いされてしまいまた持っていくパンを考えなきゃいけなくなったのにはため息しか出なかった。



 



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